大好きな君がここにいる、最後の数時間だけでも、君と一緒にいたいから。
そして、最高の私を見ていて欲しいから。
「…よし。今日は最高に可愛いよね。」
いつもはこんなにポジティブじゃない。
でも…君に、可愛く見てもらいたい。そう思ったら、自分自身が可愛いって思わないとダメだと思うんだ。
天気予報は晴れ。
君が出発する日だから―雨なんて許さない。
「……雨。」
それも土砂降り。
…最低だよ。
それでも…行かなきゃいけないから。
最後のデート。
だって君の事が…好きだから。
雨の守護者になってからというもの、大事な日によく雨が降るようになった。
野球大会のときはそうでもないけどよ…。
「アイツ、怒ってるかもな〜。」
でも、最後の数時間。天気なんて関係なしに、お前といられることが嬉しいんだけどな。
「おはよっ。」
水玉模様の傘を差して、待ち合わせ場所の駅前に行く。
武は、いつもと変わらない笑顔で私の声にこたえてくれた。
「はよ。今日は気合入ってるのな〜。可愛いぜ、。」
「そうかな?まぁ、気合は入れたけどね。…とにかく、早く行こうよ。雨で濡れたくなんかないよ。」
「ん?あぁ…そうだな。」
そう。他愛も無い1日でもいい。もう。雨でもいい。
武が、心置きなく楽しめたなら。
私は、独りになろうと本望です。
武に尽くすのが、私なのだから―。
「もう…行かなきゃなのな。」
「そっか…。今日は、楽しかったよ。ありがとう。イタリアでも、頑張ってね。」
「あぁ…。」
雨は止むことなく最後まで降り続けて、何故か私に涙を誘っているようだった。
「いってらっしゃい。」
でも、負けはしない。武を笑顔で送り届ける。
武が選んだ道は、絶対で、私に止める権限なんてないんだから。泣いて、武の決断を少しでも鈍らせることがないように、私は笑顔でいなきゃいけない。
「…。」
不意に、抱きしめられた。いや、どっちかって言われたら、期待していた。
寂しいんだよ。だから、最後に一回、思いっきり抱きしめて欲しかった。
でも…涙が溢れてきちゃうよ。泣かないと、決めていたのに。
「泣いたっていいんだぜ。」
まるで、私の心の声を聞いていたかのような、絶妙なタイミングで、武は言った。
「泣いたっていいんだ。このタイミングで、泣かないほうが不自然だろ?オレは、今までたくさんの表情のを見てきたけど、泣いているだけは、見たこと無いんだ。見せてくれよ…。それに、が泣いてくれないと、オレだけ自惚れてるみたいじゃねーか。」
武の胸の中で、もう我慢はできなかった。
「が我慢してるの、オレは知ってるんだ。もっとオレに言って欲しかったな。オレだって、と一緒に居れないのスッゲー辛いんだぜ?」
「…ごめん、なさい…。」
「謝んなくたっていいんだ。オレは、のそんなところ全部ひっくるめて、が好きなんだから。」
さらにきつく抱きしめられて、これが…もう最後なんだと思うと、辛くて、悲しくて。
武の笑顔。それがなによりも私の心の支えだった。
武の声。それがなによりも好きだった。
私は、武なしじゃとても生きていられないのに、無理をしていて、それを隠していて、でも…武は気付いていたんだ―。
私がそれに気付くのがとても遅かったから、こうして2人とも悲しい思いをしてしまっていた。
自分独りが我慢すればいいと思っていたから…こうなってしまった。
「ごめん…私がもっと早く…言っていれば。」
「仕方ないって…オレ、いつか絶対に、ココに帰ってくるから。そんなに自分を追い詰めるなよ。な?」
「武…。」
いつものような、でも少し寂しそうな、武の笑顔。抱きしめられていて、分からなかったけど、武の目は、少しだけ赤くなっていた。
「。」
「いつか…絶対だよ。」
「もちろん…約束、なのな。」
甘い。大好きな武との、甘い約束。
知っていた。武が、とても危険な仕事でイタリアに行くことを。
甘すぎる。帰ってこれるかなんて、こんなに簡単に約束しちゃいけないのに。
それでも…約束してくれた武の優しさが、嬉しくて、痛かった。
「…じゃあ、いってらっしゃい。」
「行ってくるな!」
数年後。その約束は、確かに守られていた。
直接会ったわけじゃない。
見かけたのは、ほんの一瞬だったけど、それでも武の顔ははっきりと見えた。
顎に見たことのない傷を作っていたけれど、それ以外は元気そうだ。
「…よかった。」
並盛にいるんだから、また、ちゃんと会えるよね―。
山本二発目。もっと内容を充実させることもできたのに、色々あって省略しました。
雨の守護者になったとたんに雨男になった…と捏造入ってるけど。
ちゃんとまとまってなくて申し訳ない…。
2008/07/25