棒から、水がたらたら。なめると、甘い。徐々に木の棒がはっきりしてきて、甘さの中に、木の味がする。
明日開店するオープンカフェ。最終チェックを終えると、店主の人が棒アイスをくれて、カフェの中で一番綺麗な景色が見える場所で食べさせてくれた。
太陽の光で溶けてしまって、手に垂れないようになめていくと、あっという間になくなってしまった。そのまま棒を口にくわえたまま黄昏ていると、頭をパコン。と叩かれた。
「痛っ…。」
驚いて上を向くと、一緒にお手伝いしていた男の子が顔を覗き込んでいた。名前は聞いていないけど、半年ぐらい店主さんのお手伝いをしてて、よく会っている子だった。
「お疲れっ。つか、いいなー、アイスもらったんだ。オレにはくれなかったのにな。」
明るくて、笑顔以外の表情を見たことがない。人見知りとかしない子なんだなーとか思ったけど、それどころか、年上の私(たぶん私のほうが年上だと思う)に向かって普通に敬語とかなかったし。
「貰ってきてあげようか?」
「いや、オレはいらね。さっき牛乳飲んだし。」
「牛乳好きなんだー、私飲めないんだよねー。」
「そうか?牛乳うまいぜ?」
そういえば、牛乳飲むと大きくなれるんだよね(あれ、これって迷信なのかな?)。だからすごく身長が高いんだなぁ…。
いつの間にか私の隣に座っていた彼は、ずっとニコニコしながら私を見ていた。私は耐え切れなくなって、カフェの事を口にした。
「明日から開店するんだね〜。売れてくれるといいなぁ…。」
「だな〜、オレ、ダチつれていこっかなぁ…。」
「どんな友達?」
そう聞くと、彼は少し考えて、いった。
「おもしれー奴ばっかだなー、赤ん坊を家庭教師にしてる奴とか、銀髪でいつも花火持ってる奴とかな。」
「え?」
赤ちゃんが家庭教師…いつも花火持ってるの…?
「へ、へぇ〜、個性的な人たちだね。」
店主さん迷惑しないかな―?
私が軽く困惑していると、彼は私の名前を尋ねた。
「せっかくだし、教えてくれねーか?」
「あ、うん。っていうんだ。でいいよ。」
な!オレは山本武。山本でいーぜ。」
半年もいて、名前も知らないなんて、面白いなって思った。
時間は、まだお昼を過ぎたばかりで、春を前にした太陽は周囲を暖かく照らしていた。
「すっかり春だなー。」
山本君の眼は空を仰いでいて、私の眼は山本君を見ていた。笑顔は随分かわいいけど、ちょっと真顔になると、カッコよくなる。
きっと女の子にもてるんだろうなぁ…。
ー。」
「ん?」
私の視線に気付いたのか、山本君は私の方を向いて、今まで見たことがない真剣な顔つきになった。凄い、カッコいい。
「オレな、この半年間スッゲー楽しくって、あっという間だった気がすんだけどよ、もうひとつ、思ったことがあんだ。」
「なに?」
「あのな、オレな、の事な」
ちょ、山本君、やけに「な」が多いよ、多すぎだよ!
「悪ィ、緊張すると多くなっちまうんだ。」
「緊張…?」
緊張って、どんなこと思ったんだろう?
「オレな。の事がな。そのな、な、な、な。」
ちょっと店主さーん、山本君が壊れてしまったようです!救急車よんであげてくださーい。
「あ、だ、大丈夫なんで!結構です!オッサン!!」
「えー、本当に大丈夫なの?山本君。」
「へーキだから、最後まで言わせてくれな。」
別に私がさえぎってるわけじゃないんだけど…。
「とにかくな、オレ、が……悪ィ。もう言葉じゃ言えねーや。」
山本君はかすかに呟くようにいうと、私の腰に手を掛けてギュッて抱き寄せてそれでそれで、気がついたら山本君の顔が見えなくなっていた。(つまり、ギューって、え!?)
「ちょ、ちょちょちょ、山本君!?」
いきなりびっくりしますよ山本君!!
「これで解ってくれ。。オレ、を押し潰してしまいそうなほど、す、好きなんだよ。」
「はぇ?」
え、ちょっと整理させてください、最初にあったのは半年前ですよ、そんで、互いに名前知ったのはついさっきですよ。で、す、好きで、今私は山本君の大きな体に包まれて(な、なんかいやらしい…///)。
「あ、あの、山本君?解ったから、放してくれる…かな?」
「……。」
山本君は、静かに私を解放してくれて、でも再び見た顔は見たことがない表情で、切なかった。
「オレ、半年前に一目惚れ…しちゃったらしくて、どうしても、愛おしいとか、きっと年上だよなーでも可愛いなーとか思ってて、どうせいつまでもいれるわけじゃないんだから、離れようとか思ってたけど、どうも思うように行かなくて、もう明日開店だなーって思ったら、抑えようがなくなって。」
どうも、山本君はいまの一文で思ったことを全てぶつけたようで、それっきり何も言わなくなってしまった。
「山本君。」
唐突に、私は、声をかけた。なんていおうか。
「…ん。」
「私、半年間山本君たちと一緒にお仕事できて、楽しかった。でも、今は、山本君に対してそんな、感情にはなれない…と思う。」
「…そっか、そうだよな。たった半年だもんな。でも、ホント、聞いてくれてありがとな。」
山本君は、眼を伏せながら静かに言った。「もう、さよならな。」とも言った。
「…でも。」
「え?」
「今は無理だけど、未来はどうか解らない。私、山本君のこと知らなさすぎるし、もっと山本君のことが知りたいから、付き合う…とかはわからないけど、友達…じゃ駄目かな。」


違う。違う。違うよ、山本君。本当は、本当は、好きなんだよ、山本君。でも恥ずかしい。山本君は、キラキラしてて、いつも笑顔で、可愛くて、カッコイイ。
私には、眩しすぎるんだ。今の太陽に負けない、夏の太陽みたいなんだ。


「…そうだな。がそう思うなら、ダチからだな。」
山本君の顔を見上げると、もとの可愛い笑顔になっていた。
「うん。」
私も、そんな笑顔で笑えるようになれるかな。山本君みたいに、夏の太陽になれるかな。恥ずかしがらずに、好きだと言えるかな。
山本君は私の頭をクシャクシャなでて、ニカッて笑った。今度の笑顔は、カッコいい。
もっと色々知りたい。山本君の困った顔とか、怒った顔とか、見てみたいな。山本君の面白いお友達とも会ってみたい。
「山も…「2人とも、お疲れさん。」
「おっさん。」
後ろから、店主さんの声がした。店主さんの手には、棒アイスが2本握られていた。
ちゃんにはもうあげたけど、また1本ずつ、食べていいよ。」
「お、サンキュー、おっさん。」
「ありがとうございます。」
ピンク色のアイスが、すでに水をたらしていて、手に垂れる前になめてたら、山本君に笑われてしまった。
「ハハハ、そんな食べ方したら、すぐになくなっちゃうぜ?」
「え、でも、手に垂れちゃうよ。」
会話しているうちに、ついに手に垂れてしまった。ベタベタして、気持ち悪い。
「あー、ほら、垂れちゃったよー。」
「お、そっか。そしたら、手貸せよ。」
そう言われから、素直に手を出したら、山本君が手を取って、口から舌を出して―

ペロ。

「…え?」
舐められた部分だけが冷たい。もうベタベタしないけど、そこに、山本君の唾液が付いてると思うと、心臓が飛び跳ねる。
「これで平気だろ?」
自分が恥ずかしいことをしたと自覚してないのだろうか。
無邪気な笑顔で私を見る山本君に私はドキマキしっぱなしだ。

罪作りな笑顔


初山本君!私は山本君も好きなので、楽しく書けました!

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