獄寺君…。
並中の校門にもたれて座っていた獄寺を、ただ呆然と見ている。
「…なんだよ。」
獄寺の静かな言葉に、は下唇を噛み、言った。
「……私のせいで、獄寺君、嫌な思いしちゃったから、謝らないといけない。…ごめん。」
「……。」
何も言わない獄寺に対して、は持っていた傘を広げ、自分と獄寺の上に差した。
「こんなところにいたら、風邪ひいちゃうよ。ツナさんの家に荷物置きっぱなしだし…ね?」
首をかしげて、は促した。獄寺は首をあげ、と視線を合わせると、何か切なそうな顔をした。
「…やっぱり、まだ許せないかな。そうだよね、ツナさんには敬語とれてたのに、獄寺君を差別するようだったよね…。」
「…ッ。」
獄寺は、の傘を持っていないほうの手首をつかみ、自分のほうに引き寄せた。
「え…っ!?」
傘は宙を舞い、の身体は獄寺の胸に収まった。
「謝んなきゃなんねーのは、オレのほうだ。」
そう始まり、獄寺はの身体をきつく抱きしめた。
「オレが言ったから、は頑張って敬語をやめようとしてくれたんだ。なのに、オレは自分勝手だった。お前が10代目にばかり慕ってるようで、オレだけ置いてかれてるようで、独りで変な錯覚しちまってた。」
「ごめん。」
2人の心臓の鼓動は普段の数倍早く、互いの身に響いていた。ただ、心臓以外はまったく動かないかのように2人はただそうしていた。
しばらくして、獄寺はの息遣いが荒いことに気がついた。
「おい…、大丈夫か?」
「ん…身体が…熱い…。」
真っ赤な顔のを見て、一瞬獄寺の脳裏に“エ…エロい…”とよぎったが、それ以上にの身体が本当に熱いのを全身で感じ、本気でヤバいと直感した。
「ちょ…待ってろ!!どっか雨宿りできる場所…!!」
そういって目で入れそうな場所を探してると、ふと、母校に目が付いた。
「…しゃーねーな…。」
獄寺はを姫抱きして、母校の校門を足で開けて入っていった…。
「ったく…女の子はちゃんと守ってやれよな…。」
「…るせー、つーかお前まだ並中いたのかよ。」
「ん〜、大人な女の子もいいんだけど、やっぱりプリプリ乙女も捨てがたいからな。」
「ロリコンかよ…。」
「博愛主義と言え、ガキが。」
保健室ならベットもあるだろうしと思い、獄寺は濡れたまま保健室へ向かった。しかし、そこに居たのは並高で保険医をしているはずのシャマルだった。
「こりゃ風邪だな。眼が覚めるころには平気だろ。」
の額に濡れたタオルを乗せると、シャマルは保健室を立ち去ろうとする。
獄寺は、シャマルの普段とは違う行動に気がつき、声をかけた。
「おい、お前らしくないじゃねーか。普段なら襲おうとするのに。」
「ちゃんには手ぇださねーって決めてんだよ。本人の意思を尊重したいしな。」
「は…?なんのことだよ。」
「まー時機にわかるさ。とりあえずお前はちゃんを守ることだけ考えてろ。…好きなんだろ?」
「は!?それこそ意味わかんねーよ!!なんでこんなアネキ激似のヤローを…」
「好きじゃなきゃ公衆の場で抱いたりしねーし、あんなひでー形相で女姫抱きして保健室に来たりしねーよ。」
「見てたのかよ…。」
「んじゃ、後はお好きなよーに。」
そういってさりげなく保健室のドアを閉めて行ったシャマル。獄寺は、赤面したままシャマルを見送り、が眠るベットに向かい合う。
「オレ…お前のこと、好き…なのか?」
こんな、本当にアネキ瓜二つのやつが…?
つーかどうして…。
「ん…。」
「!?」
獄寺が呼びかけるが、は身をよじっただけだった。
「…聞かれてたかと思った…。」
ハァ…と溜息をつき、の寝顔をじっと見てみる。
の髪が顔に掛かっていたので、獄寺はそっと横に退け、そのままの顔をなぞっていた。
「好き…とか、よくわかんねぇ…。」
「ワオ。こんなところに濡れた高校生がいるよ。」
背後から聞こえてきた、涼やかな声。獄寺が振り向くと、雲雀恭弥が保健室のドアを背もたれに、獄寺との2人をにらんでいた。
「てめっ…並高にいるんじゃなかったのかよ!?」
「中、高共に支配できなきゃ、風紀は守れないからね。それより…君こそ高校生でしょ?今更ここが懐かしくて戻ってきた?それとも…。」
雲雀はをちらり、と見て
「とお医者さんごっこでも?」
「バッ、バカかてめーは!!」
「バカ? 君が…じゃないの?」
「は?」
「に風邪ひかせて…。可哀想に。君じゃは守れないね。」
「…黙れ。」
「いいよ。」
「!?」
「そのかわり、は僕が連れて行く。」
雲雀は不敵に微笑むと、一瞬でのベットまで駆け、を軽く担ぐと保健室の窓から外にでた。
「!!お前、何すんだ、はまだ風邪が…!!」
「君じゃ看病できないだろう。だからほんの少しだけに我慢してもらって、僕の家に連れて行くんだよ。じゃあね。」
「まっ、待て…!!」
獄寺の叫びは虚しく、雲雀はを担いだまま行ってしまった。
「…確かに、オレじゃは…。」
眼を伏せ、溜息をつく獄寺。
「帰るか…。」
そのまま保健室を去ろうとドアに手をかけ、開けようと―。
「おい、ヒバリにを渡しておいて、ただで済むと思ってんのか? 獄寺。」
保健室から聞こえてきた声をたどると、スーツをきた赤ん坊と眼が合う。
「リボーンさん…。」
「お前、ヒバリと初めて会って何年経ってんだ。あいつの性格なんて熟知してるだろ? 今すぐ取り返しにいかねーと、がどうなるかわかんねーぞ。」
「…ですが、オレはの風邪の原因ですし…。」
「そんなの、を助けてから悔やめばいい。とにかく、この状況をどうにかできるのは、お前しかいねーんだ。お前が助けにいかないと、ヒバリのことだ。を独占しようとするぞ。」
「!!」
「早くいけ。オレはツナを呼ぶ。」
「…わかりました。」
そう言って、獄寺は駆け出した。
「…あいつ、場所わかってんのか?」
ニッと口を吊り上げ、リボーンは保健室を後にした。
もう少し続きそうです。
2008/07/25