朝…確か今日は月曜日。
窓からこぼれる光は、優しい太陽だった。
「ちょっと…起きるの早かったかな。」
目覚ましがなってないということは、多分…今は6時頃。
時刻を正確に把握するために、目覚ましを見る。
「…3時半…?」
針は動きを止め、秒針すら動きを見せなかった。
「そんな早くないでしょ…。」
少し不安に思いながら、携帯の画面を見ると。
「8時、え?」
携帯がおかしくなってるわけじゃないだろうし…。
「うわぁぁぁっ!!」
遅刻30分前。
「ハァ…ハァ…。」
家をでてから15分。時計は8時25分を示し、後5分で学校につけるわけがない…。と私は一人で落胆していた。
体力も限界だし、転入したばかりで遅刻って間違いなく教師達に眼をつけられちゃうよ…。
「ウゥ…そんな…。」
「君…並高の生徒だよね。後5分で遅刻するけど、何休んでるの?」
「え…?」
膝に手をついて、顔を伏せているところに声をかけられた。
顔を見上げると、黒い髪に、整った顔の美少年が、私を見下ろしていた。
割と大型のバイクにまたがっているのに、服装は右腕に腕章をつけた学ランを肩にかけた…いかにも学生ですってかんじ。
つり眼が私を見てると、顎に手をそえ、考える仕草をする。その姿が様になっていて、私は眼を見開いてしまった。
恐らく、獄寺君に惚れていることがなかったら、この人に惚れていた。
「君、どこかで会った事ある?」
「はい?」
考えていたのは、私の顔に見覚えがあるかららしい。
私も考えてみるけど、この人の顔に覚えは無い。
「きっと勘違いで…!!」
言いかけて、とまる。この人がもし、獄寺君のお姉さんを知っていたら、もしかするとお姉さんに私の姿を重ねてるのではないか。と思った。
「…いや、どちらにしても、並高の生徒だと言うことは変わらない。風紀を乱されるのは困るからね。早く乗りなよ。」
「は…?」
乗りなよって言ったが速いか、美少年はバイクから一旦下りると、私の身体を軽く持ち上げ、バイクの後席に座らせる。そして自身もバイクに乗って…。
「頼むから、落ちることだけはしないでよ。」
エンジンをつけ、バイクは全速全身!!って…
「あわわわっ。」
身体がバイクの速度に耐え切れず、倒れそうになる。どこかつかまる場所はないかと手は泳いで、何かにつかまった。私はそれに抱きつくように手をまわす。
景色がものすごいスピードでスクロールする。それに酔いそうで、眼を閉じた。
「…。」
美少年は私の奮闘を知らないかのように(本当に知らないのかもしれない)バイクを走らせる。
「着いたよ。それと…離してくれないかな。」
その言葉で眼を開くと、そこは確かに並盛高校だった。
「離してくれないかな」って…どういう意味だろう。
「その手を、どけてくれない?」
美少年が顔だけ私に向けて言う。
私の手は、美少年の腰にまわされていた。
「…あ!!す、すいません!!」
反射的に手をどけ、そのままバイクから下りる。
「ホントにすいません!!」
「別に構わないけど。それより、早く行かないと、遅刻するよ。」
「は、はい、そうでした!!あの…ありがとうございました。」
そういって礼をすると
「礼なんかいらないよ。それより、今は遅刻するからいいけど、昼休みに応接室にきて。こないと、咬み殺すから。」
「は…咬み殺す…?」
「あと1分で予鈴鳴るよ。」
「っあ、本当だ…あ、あの、ありがとうございました!!」
そういってもう一度腰を折ると、学校の昇降口へと走った。
「…彼女。あの草食動物の姉の割には明るいな…。」
キーンコーンカーンコーン…。
「ハァ…なんとか間に合ったぁ…。」
自席に着いたところで、ツナさんと獄寺君が寄ってくる。
「おはよ、さん。今日は随分ギリギリだね。」
「はい…ちょっと寝坊してしまって…。」
「転校してさっそく教師達に喧嘩売るつもりだと思ったぜ。」
横目で見てくる獄寺君。
「なっ、別にそんなつもりはありません!!もとはといえば、目覚ましがならなかったのが悪いんです!!」
「ハァ?目覚ましのせいかよ。間抜けにも程があるぜ。」
「う…それを言われたら反論できないんですけど…。」
「まぁまぁ…あ、先生来たよ。」
ツナさんのお陰で獄寺君との口喧嘩は止まり、ホームルームを無事に迎えた。
「え!!もしかして、それって…雲雀さん!?」
「オレ…他にそんな奴見当たらないです…。」
「ヒバリ…というのですか?あの美少年は…。」
「美少年!!さんそんなこと思ってたの?」
「アイツを美少年なんていえる奴…が初めてだぜ。」
「??どういう意味ですか?彼、格好よかったですけど…。」
昼休み前最後の休み時間。今日は2人とお弁当のはずだったけれど、遅刻から救ってくれた人のお誘いを断るわけにもいかないから…2人に事情を話したら、予想以上の反応。
うーん…どこに異論があるのでしょうか…。
「いや、格好いいとかそういう問題じゃなくて。」
「もう放っておきましょう、10代目。一発ぐらい食らっても損は無いと思います。」
「え…いいのかな…でも、雲雀さん容赦ないから…。」
「容赦ない…どういうことですか?」
「あー、なんでもねぇ。その格好いい美少年のとこまでいけばいいじゃねぇかよ。」
手を肩のところまであげて、『やれやれ』といった様子。どうも見放された気がしてならないのだけど…。
「…本当にすいません。ご一緒にお昼したかったのですが…。」
「雲雀さんの約束なら、仕方ないよ。でも…気をつけてね。」
「は…はい。」
そんなに怖いお人なのかな…?
獄寺君はそっぽをむいて、私と眼を合わせてくれなかった。
お昼休み。お弁当を片手に、ツナさんに教えてもらった応接室の場所まで行ったのはいいけど…
「あれ…並高って制服学ランだったけ…。」
応接室周辺は、学ランのリーゼントで溢れかえっていた。
「お前、誰だ?」
その集団の1人が、私に近寄ってきて、言った。(顔ゴツい…!!この人本当に高校生…?)
「あ、えーと、ひ、雲雀さんに応接室にこいって言われて…。」
「…確かに、委員長が言っていた通り、あの女に似ている…。ついて来い。」
そう言うと、ゴツい人は応接室まで行くと、ドアを開けてくれた。その人が通り過ぎると、その他のリーゼント集団は退き、綺麗に整列する。
「…どうした。来い。」
「あ、はは、はい。」
リーゼントを両端に歩くのってあまり心地がよくないんですが…とは言ってられなかった。ゴツい人の眉が寄ったから。
「委員長。例の女が来ました。」
「通して。」
「へい。…入れ。」
「はい。」
応接室に入ると、閉じ込められるかのようにドアを閉められる。正面には
「君、もう一度聞くけど、本当に僕と会った事ない?」
今朝助けてくれた人―雲雀さんが綺麗な微笑を浮かべていた。
やはり、彼は私に獄寺君のお姉さんの姿を重ねてるんだ。私は少しずれた眼鏡をかけなおし、言った。
「ありません。貴方とは、今朝初めて会いました。」
本当の事を言えばいい。なにも悪いことはしていない。
「へぇ…いつまで白を切ってられるかな。」
「!!」
突然鳥肌が立つほどの…殺気が、雲雀さんから感じた。
そう思ってるうちに、雲雀さんは私のすぐ近くまで駆けて、膝蹴りをかました。
「グハッッ!」
痛い…腹部の激痛に思わず膝を折る。その衝撃で眼鏡が落ちる。
「…どうしたの?君、獄寺隼人の姉だろう?どうして弟と同じクラスにいるの?それに、こんなので負けるほど、弱くなかったはずだけど。」
「私は…獄寺君のお姉さんじゃない。調べてくれれば…わかります。」
「調べる必要も無い。」
「あります。獄寺君自身にも間違えられたんです。彼女がどんな人か知りませんが、私は、という獄寺家とはなんの関係もない16歳です。調べれば、すぐに証明できます。」
痛みはまだ治まっていない。でも、ここで言わないと、勘違いされたままどうなるか分からない。そんな感じがした。
「…さっきの言葉を訂正しよう。君は思ったより強いらしい…精神的にね。一応調べさせてもらおうかな。そんなに言うのなら。」
雲雀さんが「草壁。」と呼ぶと、さっきのゴツい人が入ってくる。
「へい、何でしょう委員長。」
「という人間のあらゆる情報を10分以内に調べてきて。」
「承知しました。失礼します。」
…なんかこう、リーゼントでゴツい人が華奢な美少年に敬語ってのも、奇妙だなぁと思った。
本当はそんなのんきなこと考えてられないんだけどね。
それからというもの、雲雀さんは窓の外を見ている。私の事を忘れてしまったかのように。
体感時間は実に数時間。だけど、次にゴツい…草壁さんが戻ってきたときに、まだ5分しか経っていないことを知る。
「委員長。について、出来る限りのことを調べてきましたが、彼女の国籍は日本で、イタリアとは無縁のようです。」
「5分か…早いね。…それは確かな情報なの?」
「情報屋の話です。それと、最近ボンゴレに…。」
「…そう。僕はそんなこと興味ないけど、まぁいいや。」
「こちらは資料です。」
「ありがとう。もういいよ。」
「へい…。」
草壁さんが辞去した後、雲雀さんは私のすぐそばにまで来て、私を立たせた。まだお腹に力が入らず、少しよろけると、雲雀さんが支えてくれる。
「あ、すいません…。」
「別に。それより、謝らないといけないのは僕のほうだ。。」
囁きかけるような声で、名前を呼ばれたときは鳥肌がたった。…付け足しておくと、決して悪い意味じゃない。
「ここの保健室は危ないからね。病院まで送るよ。今日は早退すればいい。」
それはシャマルさんのことを言っているのだろうか…?
「い、いえ、結構です。」
「それは…どういう意味なのかな。拒否権はないんだけど。本音は…興味があるんだ。に。」
「……。」
獄寺君達が言っていたこと、今なら分かる気がする。(興味って、別にそういう意味じゃないよね…?)
何も言わないうちに、雲雀に連れられて今朝送ってもらったバイクに乗り、病院へ。
病院にいく道で、雲雀さんは言った。
「そういえば…調べてもらった時に、意外な情報があったんだけど。」
「…なんでしょう?」
「獄寺隼人に恋心があるんだって?」
「は!!?なんでそれを!!」
「優秀なんだ。僕が雇ってる情報屋はね。どこかで口を滑らせたら、すぐに彼の情報に追加される。」
…並高で会った中で一番怖い人に、一番知られたくない秘密を握られてしまった。
「まぁ僕は口が堅い。は、僕という、いい味方をつけたんだよ?」
「…どういう意味ですか。」
「僕の気が変わらない限り、の恋を応援するって言ったんだ。僕に負けず、立ち向かった女は、が初めてだからね。」
「…まだよく分からないのですが。」
「…ねぇ、君って、よく鈍感って言われない?」
「また唐突ですね。」
「そう思ったからね。、鈍感だろう。」
「…勝手に言っててください。」
なんか…今日はものすごく疲れた。その後、雲雀さんは何も言わなくなり、ただ病院まで送ってくれた。