「ったく、情けねーなぁ…隼人。なんでまた元凶がいなくなったってのに…。」
「るせぇんだよ。野暮医者にしてエロオヤジのクセに。」
本当なら、こんなこと言える立場ねーことは分かってる。…しかし、今でも信じられない。アネキに似た編入生が来るなんてな。
「アァ?せっかく世話してやってんのに、よくそんな口が利けるなぁ…オレは女しか相手しねぇっつってんだろ〜。」
ギュルルルル…。
「おいおい…真面目にヤベェんじゃねーのか?大丈夫かよ…。」
「しらねーよ。…もう帰る。」
「お前…その体で帰れるのか?」
「帰るんだよ。10代目に伝えといてくれ。あんなのがいたらもう学校行けねーっつの。」
久しぶりにシャマルと話した。俺達が進学すると共に、何故かシャマルも並中から並高の保険医になりやがった。だが、オレが保健室に世話になることもほとんどなかったから、シャマルと会うことも自然と少なくなった。
ギュルルルル…。
「げ…。」
バタン。
「ハァ…、無理しやがるんじゃねーよ。」
倒れたオレを、シャマルは肩で担いで、ベットに押し戻した。
「チッ…。」
「仕方ねーだろ、転入生がビアンキ似だってんだったら…でもま、オレは騙されねぇぜ。オレがビアンキちゃんと他人を間違えるはずがないからな…」
ガッタン!
「失礼します!です、獄寺君いらっしゃいますか!?」
「…あ。」
あの、元凶の声が、保健室のドアから聞こえてくる。ほら、シャマル。似てるだろーが。間抜けな声が、シャマルの口からこぼれる。オレがまた気絶(しかけ)にならないのは、元凶に背を向けているためだ。
「ビ、ビアンキ…。」
「はい?ビアンキ?」
「ビアンキちゃん―!!」
「ひゃあ!!」
やはり、というか、シャマルは元凶に体当たりしたみたいで、今後は元凶が間抜けな声を上げる破目にあった。
「ちょ、ちょっとやめて下さいっ!!」
「いいじゃんよ〜ビアンキちゃん!久しぶりの再会なんだからさぁ〜」
まったく、さっきの自信はどこへ行っちまったんだ。なにが「騙されねぇぜ。」だよ。このままだと、マジで危ないことになりかねない。この場合、止めなきゃいけねーんだろうな。
「黙れエロ医者ァァァァ!!」
ボガァ!!
「ギャッッ!」
シャマルは、オレの蹴りで軽く吹っ飛ぶと、壁に頭をぶつけ、眼を回してしまった。
「…あ、ありがとうございます、獄寺君。」
元凶は、床に座ったまま、上目使いでオレを見ていた。…あ、ヤベ。
ギュルルル…。
バタンッ。
「あ、獄寺君、大丈夫?」
遠くで、元凶の声が聞こえた―。
「獄寺君?獄寺君!!」
私は獄寺君の体をなんどもゆすって、眼が覚めないか確かめてみた。
「完全に気絶しちゃってるよぉ…。」
謝るはずが、変態オヤジにからまれて、獄寺君に助けてもらったのはいいけど、獄寺君倒れちゃうし…。
それにしても、獄寺君って、よく見ればカッコイイよなぁ…。私みたいな奴を助けてくれたし、きっと優しい人なんだろうな…。
そんなことを考えてたら、心臓がバクバクして、顔がすっごく熱くなった。
すっごく、呼吸が荒くなって、頭の中が軽くパニくった。
「ヤバイ…これって、惚れてしまった系…?」
「ん〜?隼人に惚れたの?ちゃん。」
「はっ?」
後ろから声がするから振り返ってみると、なんとさっきの変態オヤジが無精髭をさすりながら私を見てた。
「隼人に惚れるとなると、大変だね〜ちゃんよ。」
「え、それってどういうことですか?」
よく考えてみれば、その人は白衣を着ていて、保険医の先生だということが分かった。たしか、シャマル先生だっけ?
「どういうことって…まぁ色々あるっつーか、そうだなぁ…。」
「こいつのトラウマが問題だな。」
詳しく聞けば、私は獄寺君のお姉さんによく似ているという。そして、獄寺君はお姉さんに何らかのトラウマを抱えていて、彼女の顔を見ると、腹痛に襲われ、倒れてしまう。つまり、私の顔を見ても倒れちゃう…というわけ。
「私の顔を見ちゃったから、獄寺君は倒れてしまったんですね?」
「そうだな。」
「フゥ…私の顔を見ても倒れない方法とはないですか?」
「んー、それは難しいなー。まぁ、ひとつ挙げるとするならば…。顔の一部を隠すことだな。」
「そうすれば、獄寺君は倒れないんですか?」
「まぁな。」
「うーん…分かりました、ありがとうございます。」
私は床に直に座っていたせいで痛いお尻をさすりながら立ち上がって、もう一度お礼をいって、保健室を後にしようと、ドアに手をかける。
「じゃあな。ちゃん。」
「はい、シャマル先生。」