標的10・裏「トムとツナ」

 ……この先、あのメンバーでやっていけるのかな……
 ツナは喫茶店での会話を思い出し、溜め息をつく。
「そんな大層な悩みなんてないくせに、なにダメツナが溜め息なんか漏らしてんだ。さっさと問題を解け」
 人権を踏みにじる発言とともに、頭蓋を狙った蹴りが容赦なく襲う。
「痛っ!」
「どーせ、麻里双夜のことでも考えてたんだろ」
「…………まーね」
 正確には、麻里含めと獄寺のバンドのことなのだが、それくらいはリボーンも見透かしているだろう。
 もう、なんで麻里のことを知ってるんだ、という疑問は湧かない。
「イタリア人が三人も……ちょっとおかしい気がして」
「うち二人はオレが連れてきたがな」
「そうなんだけどさぁ」
 マフィアとか、そういうのとは関係ない人だと思う。
「安心しろ。麻里はオレが呼んだんじゃねぇ」
「やっぱり」
「ただ……」
「ただ?」
「アイツ……多分オレの顔見知りなんだ」
「は!?」
 冷静にエスプレッソをすするリボーンだが、ツナは勢いでオレンジジュースをこぼしかける。
「もしかして、またマフィアとか……?」
「いや、それがよく思い出せねーんだ。ソウヤって発音は耳に残ってんだが……」
 歯切れの悪いリボーンなど珍しい。
「明日は雪でも降るかな」
「どういう意味だ?」
 チャキという不吉な音が耳元で鳴る。
「い、いや、なんでもない……」


「リボーンの知り合いって……マフィアってことかな……」
 理科の授業の後、理科室から教室に戻ろうと歩いていると、ふと昨日の会話を思い出した。
 とはいえ、流石に公務員見習いでも日本国籍はないとまずいんじゃないかとも思う。
 いや、日本国籍持ちだからってマフィアじゃないという確信はないが……
「さーわーだっ」
 背中からの声と同時に、のしかかる重量が、ツナを押し潰そうとしていた。
「ひっ!」
 というより、抱きつかれたふうである。そういう経験に乏しいツナは、ぞわっと広がる悪寒のままに叫んでしまった。
「あ、ごめんごめん。そんな驚かれるとは思わなくってさ」
 軽くなると、とっさに距離を取りつつ振り返る。
 赤茶の後頭部を掻いて苦笑する長身は、まさしく回想で描いていた人物そのものだった。
「……トム先生だったんですか……ビックリした……」
「ビックリねぇ……」
 昨日の話を聞いてしまっては、相手を普通の青年として接することができなくなっていた。
 腕を組む姿は様になっているのだが、ツナの目を射抜くようなその瞳に、ツナは凍り付いてしまう。
「そっか、ビックリさせたんなら謝るよ、ごめん」
「え、いや……大丈夫です」
 突然緩む麻里の顔のほうにビックリする。
「授業の帰りか?」
「あ、はい」
「次ってなんだっけ?」
「えぇと……次は国語です」
「じゃ、教室戻るだけだから時間あるな。少し話聞いてくれるか?」
「はぁ」
 ツナ自身は、麻里と話したことがほとんどない。と獄寺と絡む姿は度々見るが……
「な、獄寺ってのこと好きだろ」
「あ、やっぱりわかります?」
「まーね。常に殺気むき出しなのに、とお前のときはすっかり消えるからさ」
 麻里はニヤリと笑う。
「そしてオレは、も少なからず獄寺が気になっていると見た」
が? そんなことないですよ、きっと」
 というか、は誰かをそういう目で見たりしないんじゃ……。
「いーや、絶対に特別視してるね」
 麻里は胸を張って答えた後、身を屈め、ツナの耳元で
「ま、お前は笹川頑張れよ」
 と囁いた。そして、にっと笑う。
「えっ……!」
 全身の熱が顔に集まったかのように、頬から目から、熱くなる。
と獄寺は、オレに任せておけ。だから自分の恋に専念しろよっ」
 軽くウインク。それがまた、様になっている。
「じゃっ、帰りにな〜」
 いつものような軽快な笑みで手を振り、何事もなかったように去っていった。
「…………リボーンの知り合いって嘘なんじゃ……」
 洞察力(?)は確かにありそうだが、少ないマフィア経験からそう判断するツナだった。