「……異空間、ですか」
「あぁ。いわゆるパラレルワールドだな。その線を疑って間違いないだろう」
 リボーンの言葉は、いやに真実味があった。きっと、この口からなら、明らかな嘘でさえ本当のことのように聞こえるのだろう。少なくとも、そうやって人を騙すことができそうだ。
「どうして? 過去から来たかもしれないだろ」
 ジュウダイメが言うと、リボーンがこのダメツナ、と一喝する。この人は、たくさんのあだ名をもつようだけれど、本名はどこにあるんだろう。
、お前はオレ達と会ったことはあるか?」
 突然、リボーンが私の方を向いて言う。こう、なんだか普通の言葉を投げ掛けられると、むずがゆい。
 会話の仕方なんて当の昔に忘れた。だからというわけではないが、オブラートに包むなんて知ったことではない。
「ありません、絶対に」
 ジュウダイメとゴクデラクンの顔が強ばった気がする。そういえば、さっきは同じようなことを言おうとしてやめたんだっけ。
 何が理由かはわからない。この人達に対して優しくしようという気は失せていた。私のことを知っているなんて、クラスメートなんて、嘘かあるいは、彼の妄想だ。
 異世界……その言葉を信じるわけではないけれど、もし本当だとしても、この世界の私が人と仲良くしたりはしない。
?」
 いつの間にか、私は顔を伏せていた。それを見たからなのか、ジュウダイメが、眉を寄せて聞いた。
 なんで……なんで、そんな心配そうな顔するの?
「……話を続けて」
 聞きたくない。でも、それ以上に見られたくもなかった。
「ツナと獄寺はもうわかったろうが、これが確たる証拠だ」
 ゴクデラクンとジュウダイメは、同時に間抜けな声を放つ。
「は?」
「え?」
 かく言う私も、当事者のはずなのに全く理解ができない。どこに繋がりがあるのだろう。
 リボーンは、顔を反らしながらあからさまに舌打ちをする。
「そんぐらいわかれ、バカ共」
「バッ、バカって……」
「お前達には一度話したはずだ。忘れてんじゃねー」
「そんなの知らないよ!」
「……リボーンさん、もしかして」
 顎に手を当てて考えていたらしいゴクデラクンは、眼を見開いてリボーンを見ていた。
「リボーンさんとと出会ったのは、が8歳の頃だったって話ですか?」
「あぁ、そうだ」
 リボーンは即答し、私を見て言う。
にはその記憶がない。それに、オレにもが肩に傷を負った覚えはないからな。少なくとも、このは、オレ達の歴史とは別の時間を生きているということだ」
 ゴクデラクンは、やはりと呟き、ジュウダイメは何かに気付いたように顔を上げる。
「リボーン」
「どうした、ツナ」
「異空間に移動するって、そんな簡単にできることなのか?」
「できないだろうな」
 リボーンはあっさりと、自分の仮説を否定するようなことを言った。
「じゃあ、なんでそんなことが言えるんだよ?」
はテレポートができるからな。空間を移動できるなら、うっかり違う世界の同じ場所に移動することがあるかもしれねぇ」
 え?
 顔をあげれば、リボーンが横目で私を見ていた。
「何故テレポートのことを知っているのか、だろ?」
 ぴたり、と言い当てられた。そうとも答えられず、うつ向く。
「お前が思っていることくらい、簡単にわかる」
 リボーンは私が寝ていたベッドに腰掛け、顎に手をそえ、私の顔をさらに上げた。乱暴ではなく、優しく、そっと――――
 パシッ
 視界をなぐように、手が降った。その手はリボーンの手を叩き、すっと引っ込められる。見ると、その手はゴクデラクンの手で、ゴクデラクンは辛そうな顔で立っていた。
 ――というか、いつの間に近付いていたの?
「お許し下さい。いくらリボーンさんでも、に触るのは許せません」
「このロリコンが」
 ゴクデラクンが謝るのをよそに、リボーンは容赦なくゴクデラクンに言い放つ。その言葉の意味はわからなかったけど。
「違います! ただオレは……」
「わかってる。どーせ忘れられていねーんだろ?」
 一瞬言葉を失ったゴクデラクン。リボーンは、言わずもがなと理解したようで、ジュウダイメはそのやり取りを見ながら寂しそうに笑った。
「それにしても、はどの世界でも変わらず美形だな」
 変なの。私が白き死神だと知りながら、なぜ普通にしていられるんだろう。
 クラスメート? そんなわけない。年の差はハッキリしている。そんな嘘に騙されたりしない。
「あぁ、そうか。あなた達は能力者狩りのことを知っていた。なら私の能力を知っていてもおかしくないし、私が死神ではないこともわかるか」
 そう呟いた私の声は、誰にも聞かれてはいなかった。気のせいかもしれないけど、一瞬リボーンと目があって、すぐにそらされた。
 それはそれでいい。一番の問題は、どうして彼等が能力者狩りを含め、私のことにこれほど詳しいのか。
 考えは、すぐにまとまった。
「わかった。あなた達、能力者狩りでしょ」
 臆する? 自分より格下である能力者狩りに、何を臆する必要があるのか。乱暴で低能故に、意味もない殺戮を繰り返す。それが危険なだけで、怖いものは何もない。
 次の瞬間に見たのは、私が想像した反応とは違うものだった。
「んだと! お前、よりによってそんな勘違いしやがって!」
 あっさり肯定すると思った。牙を剥くように叫ぶゴクデラクンに一瞬怯むけれど、私はすぐに切り返した。言葉は決まっている。
「勘違い? 変なの。こう考えて当然じゃない。私の能力を知っているのは、母と能力者狩りだけなんだから」
 異世界なんて嘘、クラスメートも嘘。私が信用しかけたところで、嘘だと傷付けて、それを"罰"と称して笑うんだろう。けど残念。私はその前に気付いてしまった。きっと今に、化けの皮を剥いで薄汚い笑みが零れるはず。
「……、本気でそんなこと思ってんのか?」
 すとん、とゴクデラクンは私の真横に膝を立てた。ベッドにいる私を、自然と見上げる形で、怒っていたと思っていた顔は、悲しく歪んでいた。
 私は眼を見開く。いつも能力者狩りは、この程度はやしたてれば正体を現していた。彼らは嘘を吐き続けられるほど、頭は良くなかった。
 なのに、この人はそうじゃない。それは、彼が余程狡猾だからなのか、それとも、彼らが語ったことは全て真実だからなのか。私には見分けがつかなかった。
 栗毛の少年とスーツの子供は、否定も肯定もしなかった。銀髪の男は、今にも涙を流しそうで……。
 泣くなら、ジュウダイメだろう。ゴクデラクンが泣いても、絵にはなるかもしれないけれど、似合わない。
 揺れ動く深い森のような瞳。その瞳が、何かを必死に訴えている。
 私の中で、何かが息を吹き返そうとしていた。それは、私の命取りになるかもしれないそれだったり、でも、どこかで求めていたそれだったり、そんなもの。
 それはつまり、信じたい、すがりたい、そんな感情。
 口を開く人はいない。きっと、私の言葉を待っている。
 その私は、何と言っていいのか分からなかった。肯定するべきか、否定するべきか。そもそも、何を問われているのかを忘れてしまった。
 早く、早く何か言わなくちゃ。
「……信じて欲しいの?」
 口から出たのは、やり取りを要約した言葉だった。
「……全てを信じて、とは言わないよ。だって、オレも君が異世界から来たとか、そもそも君が今この場にいることが信じられ」
「要点を言え、ダメツナ」
 リボーンの一喝で、ジュウダイメは一旦口を開いたまま止まり、一呼吸置いてまた話し出す。
「信じて欲しいのは、ひとつだけだ」
 そしてジュウダイメは、微笑んだ。
「オレ達は、君の味方だよ」
 全てが、終わった。
 もうこの人達が能力者狩りでもいい。どうせ、一度は全てを捨てた。今更、これ以上酷くなることはない。
「味方、それは構わない。貴方達が能力者狩りだと言った言葉も、撤回する」
 ゴクデラクンと、ジュウダイメの顔が明るくなる。
 でも、勘違いしないで。と、私は口の中で付け足した。
 心は開かない。
 そう、いつものように、寄生するだけ。
「言っておくわ。私を助けようなんて、自殺行為」
「……だから、能力者狩りはほとんどいないんだっての」
「いなくなったりはしない。いつ、どこでも、超能力者を嫌う人はいる」
「大丈夫だよ」
 ジュウダイメには、さっきはなかった何かがあった。強い意思をこめた声に、自然とひかれる。
「オレ達は、能力者狩りには負けない……次こそは、全てのものから君を守る」
 ゴクデラクンもジュウダイメに続いて同じことを言った。悲しそうな表情は、どこにもなかった。
 ……次こそ、か。
「……勝手にして」
 そうして、私は笑顔を作ろうとした。でも、頬の筋肉はうまく動かない。かろうじて、眼を細めることはできた。
「あなた達は、何者?」
「オレは、沢田綱吉。彼は、獄寺隼人君。オレ達は、この世界のとクラスメートだった」
「そしてオレは、お前達の家庭教師、リボーン」
 そう言って、リボーンは子供の顔でニヒルに笑うのだった
 ああ、そうだ。ここって異世界なんだっけ。だとしたら、こんな子供が家庭教師なのって、この世界の常識なのかも。