大空は、優柔不断だ。
この空もそう。
あの……大空も。
「」
「はい、なんでしょう。ノーノ」
「君にはこれから日本に行ってほしい」
「この少年と」
「彼は、獄寺隼人君。今日から君のあるじだよ」
「……ある、じ」
「そう。私の元から離れ、彼の力になってあげなさい」
「………はい」
最初は、なかなか命令を与えなかった主。自分ですべてをこなし、私はずっと立っていた。
しかし、日本に来てから4日後に彼は私に命令をするようになった。私がそれをこなすと、彼は目を細め、また別の命令をした。
彼は、時たま私が機械であることを忘れ、様々な話をした。
自分の主のこと。今月の月刊世界の謎と不思議のこと。ウザイ野球バカのこと(ウザイがどういった意味なのかは理解しかねるが)。
そして、時には悩みを。
「なぁ、」
「なんでしょう」
「最近、変なことばっか考えちまうんだ」
「…具体的に言ってくださいませんか」
「お前が人間だったらいいのにな。とか」
「……それを求められましても私にはどうすることも」
「わかってる」
無駄な話をした。と、主は言い、焦点が定まらない目で窓の外を見ていた。青い空と木と道と家が見えた。
傷だらけで帰ってくる日、消毒すると私の頭に手を乗せる。
雨の日、傘を持たないまま学校に行って濡れて帰ってきたら、私に抱きつく。(少しショートしそうだった)
イタリアにいたころから、人は情緒不安定なのは記録していた。でも、この理解不能な行動はなんなのか。
私のデータベースには、この行動の意味が記されていなかった。
しかし、私は人工知能搭載型ヒューマノイド。幾年の月日を経て、なんとなく彼の行動を理解するようになる。
ぼんやり外を見ている時は、欲求不満。(その日は高確率で夜寝るのが遅くなる)
爆弾の手入れをしている時は、爽快。(その日は大抵彼の主から相談がくる。翌日は100%校舎内爆発事故の手紙が配られる)
雨の日に私に抱きつく時は、悲哀。(その表情が悲哀を示すものらしい)
彼は、人間にしては割合素直で、隠し事はあまりしない。
…主に心配させるようなことは別だが。
そういった性格もあり、記録は容易かった。
しかし、様々な知識を記録していく中で、ひとつだけわからないことがあった。
彼は何故、私が人間だったら、などと思うのだろう。
2日に一回は言っている。
「が人間だったら」
どんな技術を持っても、何もないところから命は生まれない。機械に命は吹き込まれない。機械とは、そういうもの。
主もそれは分かっている。
でも、何度私が言っても、また私が人間になることを望む。
……ノーノ、主は、どうして望むのでしょう。
私には、人が物事を望む理由がわからなかった。
そして、ノーノが私を彼につかせた理由も。だって、私は――
「只今帰りました、ある―」
残暑が続くと言われる9月。買い物から帰ってきたら、主は家にいなかった。
今までにも、私に黙って出かけることはあった。だから別に非常事態ではないと判断。帰ってきたらすぐご飯にできるように、支度をした。
しかし、夜が明けても帰ってこなかった。
電話をかける。
「只今、携帯の電源を切っているか、電波の届かないところにいます―」
無理はない。よく携帯の充電を忘れて、学校で電池を切らすことがある。
また待ってみることにした。
掃除、洗濯。いつも通りの仕事をこなし――
「主、お夕飯は何に――」
いつも通り、しかし、主が居ない空間で、私は訊いていた。
今の時間は、6時半。普通は、この時間には帰ってきている。人工知能は、この状況に対応しきれなかった。
すべての家事は済んでしまった。命令をくれる主はいない。人工知能は、これからすべきことを知らない。
そう。私は、ひとりでは何もできない。それを知り、私はかつて主がそうしていたように、外を眺めた。
空は、太陽が沈みかけて、青と赤のグラデーションを作り上げていた。まもなく、夜がやってくる。
太陽や、月、天気がなければ、ただ一色の空。すべてに飲み込まれ、自分はただ成されるがまま。
まるで……私のようだ。
大空は、ただ優柔不断で、ただ、それを受け入れる力があり……ノーノは、それだけではない何かを持っていた。
デーチモは、それこそ大空のように、染められてばかりだった。しかし、ノーノにあった何かの片鱗をみせている。
大空は、くるくる変わっていく。
大空は、私のようなのに、私ではない、矛盾。
「私は――どうして人間ではないのでしょうね、主」
この時感じたものは、"侘しい"という、人間の感情だったらしい。
"……感情も、彼女の中では知識にすぎない。どんなときに現れるのか。無数の人間から学んでいるから、より感情のパターンが複雑になる。しかし、それはいちばん人間らしいと言えることなのかもしれない―中略―人工知能搭載型ヒューマノイド"サクリファイス"は、嵐の守護者様の元、感情を学んで、意思表示こそするようになったが、自ら行動することはないため、危険性は見られない。もし、そういった行為が見られた場合、"
"嵐の守護者様から引き離し、早急に処分する必要がある"
「……隼人…………頼むから、ふたりはこんな結末を迎えないで……」