「隼人おはよう、今日も立派に旦那を迎えに来るなんて偉いじゃないか」
「だーれがテメーの嫁になった。オレは10代目を迎えに来たんだっつの」
一瞬でツッコミ所満載の台詞を制裁し、丁度階段から降りてきたツナに、にこやかな笑みを向ける獄寺。これくらいの邪魔など、獄寺の機嫌を損ねる要因になったりはしない。
「おはようございます! 10代目」
「あ、おはよう。獄寺君」
「え、綱吉もう着替えたのか?」
「いや、玄関開いてるのにパジャマで降りるのはちょっと……」
並中の制服を纏い、苦笑するツナに、スウェットのは腰に手を当てて言う。
「別にいーじゃねーか。ここはお前んちだろ」
「そういうテメェは玄関開いてなくても着替えてろ。キャバッローネじゃ、同盟ファミリーへの遠征時のマナーも学ばなかったのか?」
鋭く睨み付ける獄寺を軽くかわし、
「いーんだよ、オレは綱吉の兄弟子だもん」
「跳ね馬の修行勝手に付き合ってただけだろーが!!」
「だってあそこ過保護すぎて体鈍るから」
うるさいなーと耳を押さえるに、遂に獄寺の堪忍袋の緒が切れてしまう。
「だー!! んなことどうでもいいから着替えやがれっ」
の肩を掴むと、少し大きめだったスウェットがずれて、大きくはだけた。
「いやっ、隼人のエッチ」
肩口から覗く首筋とか、体の線とか、やっぱりよく見るとの体は女子のそれで、獄寺はタコの如く真っ赤に茹で上がる。
「なっ、ババババカ言ってんなっ」
「なんてなっ」
頬を赤らめていたのは嘘のように、はニカッと笑った。
「隼人になら体を明け渡す準備は出来てるんだって! でも、ほらここ綱吉んちだし? やっぱ関係ない人んちはちょっとな! あ、あと朝じゃなくて夜とか……」
「なんの話してんだっ、て、の!!」
「獄寺、、はよっ!」
肩にかなりの負荷がかかる。何かと思えば、それは山本の腕だった。いつもは怒鳴るところだったが、他に気になることができる。
何故、10代目の名前が……と思い辺りを見回すと、何処にもツナの姿がない。どうもリビングでランボが騒がしいから、きっとツナも朝食を食べているのだろう。
――10代目の前で酷い会話を……あとで謝らなければ。
いつの間にか消えていたのも、あの会話が原因に違いなかった。
「……ん? どうしたんだ、お前等」
「ん? ちょっと大人の話をな」
が妖しく笑う。
「ふーん……よくわかんねぇけど……あ、ツナはまだか?」
呼んでくると言って、はリビングに入っていく。
「そーいやお前、朝練はどーした」
「ん? あぁ、朝練休みって連絡来てさ。昨日の雨でグラウンドぬかるんでるからって」
「……なるほどな」
そうこうしているうちに、ツナがカバンを肩に下げながらやってきた。
「ごめんね、待たせて」
「いえ! むしろもう少しゆっくりされてもよかったのに」
「んじゃっ、行ってくるのな!」
「ん、行ってらっしゃい」
いつものように、何事もなくツナの家を出発した。
が学校まで追ってくることはないし、これで獄寺は10代目の右腕としての仕事に専念できる。
……はずだった。
「なぁ獄寺、大人の話ってなんだ?」
「はぁ?」
山本の問いで、脳裏にの顔が掠め、気だるさを覚える。
「さっきが言ってたろ、獄寺、金でも借りてんのか?」
「や、山本!?」
仮にそうだったとして、素直に頷く奴がいるだろうか。
「それとも、アッチ系の話?」
目を細めて、
「が勝手に興奮して、ひとりで進めた話だ。オレが知るか」
所詮山本相手だ。と、獄寺は適当にあしらった。
「ふーん、やっぱそーゆー話だったんだ。あ、でもはやめといたほうがいいんじゃね」
「やめとくもなにも、そんな気はまったくないね」
獄寺がそう吐き捨てると、山本は笑って、そりゃ失礼した、と言った。
「にしても、あんなこと言い出すから、オレ……」
ツナのげっそりとした表情に、はっと目を見開く。
「先程は申し訳ありませんでした! 10代目の目の前で、下品な話を……」
「い、いや、いいんだよ? 仲が良いなら」
「……にそんな気は起こりません。アイツはずっと可愛くない奴でしたから」
結局なんて話をしているんだ。獄寺はツナに気付かれぬように溜め息を吐く。
「なーなー獄寺」
「んだよ、うるせーな」
「昔のってどんなだった?」
「あ、それオレも聞きたい」
山本に続き、ツナまで。獄寺は、あの屋敷の景色を一瞬だけ思い出すが、すぐに振り払って目を伏せる。
「……ですが、勝手に話していいものか……それに、本当に昔すぎて今のの欠片もありませんし」
「ままっ、いいじゃねーか!」
「に都合の悪い話でもあるのかな、なら話さなくてもいいよ」
ふたりの正反対の意見に、少し悩んだ後、獄寺はゆっくりと口を開いた。
「そうですね……では、覚えていることから少しだけ」
全て話したところで、は気にしないだろう。とはいえ、死んだらしい彼女の両親と兄貴のことは、あまり触れないほうがいいのかもしれない。
「オレはシャマルからダイナマイトを習いましたが、それを実戦で使えるレベルまで鍛えてくれたのはなんです」
「へぇ……ってその時から強かったんだね」
「悔しいことに」
苦笑する獄寺。
「才能はありましたから、アイツんちのマフィアの後継者としてファミリーにちやほやされてました。奴は昔からピンをベルフェゴールのように投げたり、ダーツのように打ったり、中距離用の武器として使っています」
「そういえば……」
顔に青い線を入れるツナ、山本はわかっているのかいないのか、とりあえず笑っていた。
「まさか、あのピンがマジで武器として確立するとは思いませんでした。ガキんときのおもちゃみたいなものだと」
「ピンって、髪留めるやつだろ?」
「や、山本……今更じゃないかな……」
「そうか?」
獄寺は山本をあっさり流し、話を進める。
「執拗にオレに迫ってくるのは、年が近くて、幼なじみと呼べるのがオレだけだったせいでしょう。恋とは違う」
「ん? そういえばっていくつなんだ?」
「自分で15って言ってたよ、オレ達と同い年じゃない?」
「あ、いえ……今年はまだ誕生日迎えていないはずなので、ひとつ上です」
「え! 全然そういうふうには見えないんだけど……てゆーか! じゃあどうしよう……今更敬語なんて使えないよ!?」
「いいじゃねーか、だって今更気にはしねーよ!」
「そ、そっか……」
それもそうだ、と納得するツナ。
朝から慌ただしかったが、いつものように並中につこうとしている。
獄寺は、余計な雑務が増えたものの、朝の仕事をひとつ終えた。