「おはよー……ん?」
ツナが起きると、はげっそりしてました。
「あの、……どうしたの?」
恐る恐る聞くと、のか細い声が返ってきた。
「……がくる……」
「え?」
うまく聞き取れず、聞き返す。すると、は振り返りざまツナの肩を掴み、涙ながらに言った。
「ディーノが来る!」
「……えっ、ディーノさんが!?」
の迫力に怖じ気付くツナだったが、それよりもっと、の言葉に驚いた。
「今朝、に連絡が来たんだ。もうすぐここに来るぞ」
嘆くの代わりに、リボーンがひとり他人事のように言う(事実他人事なのだが)。
「でも、なんでは嘆いてるんだ? むしろディーノさんが来て嬉しいんじゃ……」
「嬉しい? んなわけあるかぁ……」
「…………?」
は、今にも泣きそうになりながら座布団を抱きしめる。まるでこれからくる人物に怯えているようである。ここに、ふと本来の女の子らしさが垣間見えるのだが、残念ながらは胡座をかいている。
「……愛ってのは、時に刃になるんだぞ、ツナ」
「? それってどういう――」
ピーンポーン……
家のチャイムが鳴り、奈々が「はーい」と玄関へ出ていく。
「あら、ディーノ君!」
「ひっ、来た!」
は座布団を盾代わりにし、自らの身を隠し―ているつもりなのだろう―震え始めた。
「こんちは、ママン」
玄関のほうから聞こえる声は、明らかにディーノのものである。
「こんにちは〜、ツナに会いに来たの?」
「ま、それもあるんですけど」
「そう、ならこっちに居るわ、入って」
「んじゃ、お邪魔しまーす」
「来るなっ、綱吉にロリコンが移ったらどうする」
"移らないと思うけどな……"
そうこうしている内に、ディーノ(とロマーリオ)がリビングに入って来る。
「よっ、ツナ。は元気にしてるか?」
「あ、ならここに……」
教えていいのか一瞬悩んだが、(どうせバレるだろうし)が隠れている座布団を指した。
座布団からは、ハネたオレンジの髪が飛び出ている。
「ー!!」
ディーノはそれに気付くと、ほぼ飛び付く形で座布団に向かって行った。
ギリギリのところで避けたは、狙いを失い床に顔面をぶつけたディーノの後頭部を、思いきり踏みつけた(ツナは、どこからかフギッという声が聞こえた気がした)。
「このロリコン! オレはいたいけな15歳だぞ!? 23歳なんて老いぼれが手を出していい歳じゃねーんだよ!!」
「い、いいだろ……挨拶くらい……」
「喋るな息をするな! お前は愛情表現が過激すぎるんだよ、伝染したらどうする! その愛情表現のせいで、この前女に逃げられたことも知ってるんだからな!?」
「いや、あれはだな……ってなんで知ってんだよ!?」
踏んでいる足ごと頭をあげるディーノを、はもう一度踏んだ。
「キャバッローネはみんな知ってるっつの! お前の顔によく書いてあったからな!」
の怒涛の言葉の嵐に、ディーノはやがて黙りこんでしまう。
「……ディーノさん、大丈夫かな……」
「ほっとけ。少しすればまた戻るから」
は髪をかきあげて、着替えてくるとリビングを出て行った。
その後、ディーノはむくりと起き上がり、蹴られたところを掻きながら呟く。
「……相変わらず、照れ屋だな、は……」
「あれを照れ屋と言いますか!!」
「都合よく解釈してるだけだろ」
リボーンはエスプレッソをすすり、
「そういえば、今日はどうして日本に来たんだ?」
と問う。
「そりゃあ、のことが気になってな。ツナ達とうまくやれてるか、見に来たんだ」
「……まさか、それだけですか?」
「まぁな……実は、リボーンの報告がなきゃ来ることはなかったんだ。それなりに忙しかったしさ。でも、隼人と幼なじみだったとか、野球場で倒れたとか……そんな話聞いたら……な」
「は意地張って報告しないだろうからな」
ツナは、なるほどな……と思う。確かには、自分に負い目のあることは言いそうにない。
「たく、兄心がわからねぇ奴だ……オレはこんなに心配してんのによ」
「え? 兄心って……」
「昔は兄妹のように仲がよかったからな。オレがいなくなってからだったか? あいつがお前に反抗するようになったのは」
「あぁ……どうしたんだろうな。突然、"オレに兄貴なんて必要ない!"って怒って……それまでは修行だって飯だって一緒だったのに」
「へぇ……」
ツナが仲良く食事をとっているディーノとの図を思い浮かべている(これがなかなか難しい)と、ロマーリオが豪快に笑い出す。
「ボスは、が来てからずっと一緒だったから、フラれたみたいでショックだったんだよなぁ?」
「は? ちげーよロマーリオ!」
「……そうだったんですか……」
「ちょっ、ツナ誤解だ、これはロマーリオの勘違いだぞ!? オレは兄貴として」
ディーノの叫びを遮るように、再び玄関のチャイムが鳴る。
「ツーナー、出てくれないかしらー?」
「あ、うん……」
しぶしぶ立ち上がり、玄関へむかう。
「はい……」
「10代目! また跳ね馬来てんスか!?」
ドアを開けた瞬間、獄寺の顔が飛び込んでくる。ツナは思わず尻餅をついてしまった。
"つーか、オレじゃなかったらどうするんだよ……!?"
「あ、うん…そうだけど……?」
「……10代目、お邪魔します」
獄寺は、そう言って無遠慮に上がっていく。本当に自分を10代目と思っているなら、もう少し謙虚になれないのか……と、ツナは不満たらたらの状態で獄寺の後に続いた。
「おい、跳ね馬」
「よ、隼人。オレの大事なに手を出したりしてねーよな?」
「……第一声がそれかよ、がお前をロリコンだって言う理由がよくわかったぜ」
「いや、オレはを妹として……」
「んなこと知るか。つーかな、そんなに大事なら10代目の家に居候なんかさせるな。10代目がどれだけ苦労なさってるか知らねーだろ」
またしても言葉攻め。挙げ句の果てに、懐から数本のダイナマイトを取り出し……
「今すぐ連れて帰らなかったら、この場で「ま、待て! の日本行きはオレだってが行くまで知らなかったんだ!」
ディーノは両手を振る。
「……はぁ?」
「を日本に送ったのは、ロマーリオなんだって!!」
「え? ロマーリオさんが?」
獄寺とツナがロマーリオを見ると、ロマーリオは笑いながら言った。
「日本のコトワザには、"可愛い子には旅をさせよ"ってのがあるんだろ? だからには色々行かせてやろうと思ってな」
「そのことを聞かされた時には、もう日本に着いてて、その時は流石に呆れたけどな。まさかロマーリオさんが"そんなこと"でオレを日本に送るなんて」
「あ、」
二階から降りてきたは、黒いTシャツに白いハーフパンツと、ラフな格好だった。
「でも、日本に来て正解だったな。だって、隼人にまた会えたんだから」
歯を見せながら笑うに、ディーノが「……かわいい」と呟くと、の目付きが一変。座っているディーノに回し蹴りを飛ばした。蹴りは回避する間もなくディーノの横面を直撃し、倒れたディーノは頭を床に打ち付けた。
「かわいい? オレは女じゃない。そんなことを言われても虫酸が走るだけだ」
は、不意打ちに目を回すディーノを睨みつける。
「ディーノさん!?」
ディーノは鼻血を流しながら、白目をむいていた。完全に気絶しているようだ。
「……跳ね馬よりのほうが強いんじゃ……?」
ツナと獄寺は、そろって顔に青筋を浮かべていた。そのふたりに、リボーンが解説する。
「才能とスピードはのほうがあるからな。小さい頃から訓練を受けていたらしいと、オレが来るまでまるっきりしていなかったディーノじゃ、経験にも若干の差があるしな」
「……たしかに、はガキの頃から家の次期当主として戦闘の知識を叩きこまれてましたが……」
「当主!?」
「10代目のように、もマフィアのボスの一族だったんです。奴の父親は血筋通りにボスを勤め、その娘であるは一人っ子でしたから、必然的に次期当主……ボスになるはずでした」
淡々と説明する獄寺だったが、ツナは驚きを隠せなかった。
「10代目もお聞きになったように、ファミリーが全員殺されて、壊滅したようですがね」
清々しそうに前髪を掻きあげる。ツナは、とてもマフィアのボスなんて似合わないと思った(ツナとは別の意味で)。
マフィアになる気など、今も全くないツナだが、獄寺や山本……大事な仲間が傷付く度に、苦しい思いをしてきた。おそらく、にとってのファミリーもそんな存在なんだろう。そのファミリーを失って……。
それがいつの話かはわからないが、今、こうして何事もなかったように過ごせる程に立ち直るのには、かなりの時間が必要だったはずだ。ツナなら、あるいは一生ムリかもしれない。
の過去と、それを乗り越える強さに、ツナは様々な思いをつのらせた。
「綱吉!」
「……え?」
ツナが気付かないうちに、はツナの目の前で仁王立ちをしていた。
「ディーノが息をしてない」
「は!?」
が親指で指した先には、顔を真っ赤にして倒れているディーノの姿があった。
「多分オレの人工呼吸期待してるから、代わりに綱吉がやっといて」
「……あぁ」
なるほど。呼吸がないなら普通は真っ青なはずである。真っ赤ということは、ディーノは自分で呼吸を止めているのだ。ロリコンというより、最早変態である。
「あぁって、10代目何を納得してんスか! このままだと、10代目と跳ね馬が……!!」
「大丈夫だよ、まさかディーノさんが死ぬわけないんだから」
変態とはいえど、程度は理解しているはずである。
ツナの予測通り、すぐにディーノは呼吸を再開した。荒く息をする姿に、ツナはいくらか幻滅する。
「もっと格好いい人だと思ってたのに……」
実に2年間も騙されていた。そしてツナはマフィアをさらに謙遜するようになる。