「神様、どうして私は不幸なの。なぜ大切な人ばかり失うの」



「神様、どうしてオレは――」



過去を引きずって生きている?



「……」
「10代目、起きてください。宿題が終わりませんよ」
「だって……わけわかんないよ……」
何が確率だ。何が合同だ。そんなの将来いるの?
「それはそうですが……」
テーブルの上に散らかったプリント、教科書の類。それらが、ツナのアホ振りを物語っている。
獄寺は、勉強しようとしないツナを懸命に励ますが、ツナとしては、頭のいい獄寺に言われても癪にさわる。不良なのに、怖いのに。そりゃあ、お坊っちゃんだったからイイ家庭教師雇ってたんだろうけど。
本当に……坊っちゃんがどこで道を踏み違えたらマフィアな不良になんてなってしまうんだろう。
「10代目ー」
ツナは、獄寺の目をじーっと観察しはじめる。
もしオレ達が、あんな出会い方をしなかったら。獄寺君が、三倍ボムを失敗しなかったら。こんな風に、オレんちに遊びに来ることなんてなかったんだろうな。
"10代目になるのは、このオレだ!"
……過ぎてみれば、懐かしい。あんな表情、もうオレには向けてくれないんだな、なんて。(いや向けてほしくないけど!)
「……もう少しだけやってみようかな。獄寺君教えてよ」
「はい!」
その矢先、ドア一枚向こうで爆発音が響く。
なんとなく察しつつ、ツナがドアを開けると、やはり大人ランボがやれやれと頭を掻いていた。
「あぁ、若きボンゴレ……またガキのオレがなにかしましたか?」
「さあ……? ランボが入れ替わる前になにがあったかはわからないんだけど……」
「アホ牛がオレのエスプレッソを飲んで、苦さで勝手にぐずったんだぞ」
「入れ替わっても苦いだろ!」
「やれやれ……エスプレッソのうまさも分からないなんて、まだまだここのオレはガキですね。」
「お前は飲めるのかよ……」
「オメーには牛乳がお似合いだ!」
「…………」
"罵り方が……"
ランボは落ち込んだように黙り、獄寺はランボの反応にやたら嬉しそうだった。
「……飲めますよ! オレいい加減15歳なんですよ獄寺氏! リボーンそれ貸せ!」
「バカかテメェ」
リボーンの手にあるエスプレッソを取ろうと手を伸ばすと、リボーンの蹴りが炸裂。ランボの頭蓋に直撃し、ランボはその勢いで階段から落ちていった。
「ラ、ランボ!?」
ガガガガとランボが階段を転げ落ちる音が響く。
「ケッ、バカじゃねーのか?」
「死んだな」
「殺すなー!!」
ツナが一階を恐る恐る覗くと、そこにあったのは血の海とそれに浮かぶ真っ赤な牛柄シャツ――ではなく、傷だらけの大人ランボと、その大人ランボを段の途中で押さえている、ツナと同じ、あるいは少し上くらいの少年だった。
「大丈夫か?」
「あ、えぇ……」
大人ランボを段に座らせると、ツナを見て、
「Ciao,ボンゴレ10代目」
と口元をつりあげた。その声は、少年にしては高く、少女のそれだった。
「は、だ、誰……ですか?」
不法侵入者に対して警戒するのは勿論だが、ツナは警戒を通り越して怯えていた。
「10代目? 誰か来たんスか?」
獄寺は少年を見下ろし、
「なんだあの野郎」
と初対面に関わらずガンを飛ばしていた。
「ん……?」
少年は獄寺を凝視し、ランボを置いて階段を登っていく。
ツナは慌てて床を這うように奥に行くが、獄寺は「なんだテメェは」と言ったまま腕を組んで立っていた。
「……」
少年は二階に到着し、獄寺と数十センチの間を開けて対峙する。少年は獄寺を無遠慮にすみずみまで見回し、「もしかして」と呟いた。
「なんだよ。オレは見せモンじゃねぇんだ」
「……隼人?」
獄寺が声を荒げると、少年は、獄寺の名前を呼んだ。
「え……獄寺君、知り合い?」
「知りません。こんな髪色の男なんて」
少年の髪は、短く、オレンジに近い茶髪だった。手入れはほとんどされておらず、ところどころハネている。
「ごくでら……やっぱり隼人じゃんか!」
目を輝かせ、少年は獄寺の肩を掴むとそのまま押し倒した。
「ガッ! いてーんだよテメェ! 離せ! 名前聞く前に果たす!」
獄寺は懸命にもがくが、少年の力が強いらしくなかなか起き上がれない。
「なんだよ、6年振りの感動の再開だろ?」
「6年前……?」
「ハァ? テメーの顔なんか一度も見たことねー…………」
獄寺はピタリと動きを止め、少年の顔を見た。
「は、何の冗談だ。違うだろ、まさか……」
「女らしさなんてとっくの昔に捨てたさ」
懐かしむような笑みを称え、少年は、獄寺の艶やかな銀の髪を撫でた。
「まだシャマルの髪型真似してたんだな」
、なのか?」
「ご名答……久しぶりだな、隼人。お前も日本に来てるなんて思わなかった」
獄寺の肩の上に置いていた手をゆっくり離すと、少年、いや少女――は立ち上がって、今度はツナと向き合い、
「初めまして。ボンゴレ10代目。自分はキャバッローネファミリーのと申します。以後お見知り置きを」
と恭しく礼をした。いきなり立ち振る舞いが変わり、ツナも獄寺も仰天である。
「は? キャバッローネって……ディーノさんとこの!?」
「えぇ。ボス……もといあのロリコンがいつも世話になってます」
「ロリコン!?」
ツナがますます驚いていると、獄寺が立ち上がり、何かに耐えきれない様子で言葉を口にした。
「ちょっと待て! お前、家のファミリーはどうしたんだ!」
目をつむり、首を横にふる
「死んだよ、みんな。生きてるのはオレだけ」
「な……」
いまいち状況が掴めていないツナでも、の言葉の意味を察することはできた。
「……まっ、そんなことはいいじゃないか! それより話があるのは10代目なんだから!」
やたら明るい声。しかし無理をしている様子ではなかった。
「そんなことって、オイ」
「今はこっち優先だっての。それでここに来たんだから」
「あ、そういえば……キャバッローネの人が、どうして?」
ツナの問いに、は表情を改め、真剣な顔つきになった。
「キャバッローネは、最近日本を本拠地に変えたマフィアとある交渉をしているんです。それで、ボスは今まで以上に日本に来ることが多くなります。しかし、別の問題でロマーリオ様など、特に信頼を置く部下がボスの来日に同行できなくなり……代わりに自分が日本に滞在して、来日したボスに付くことになったのです」
「はぁ……」
「そこで、同盟ファミリーである10代目のご自宅に厄介になろうということになりまして、今日は挨拶と、荷物の持ち込みをと」
「はぁ…………はぁ!?」
また飛び出た話である。そんなことはツナにとって全くの初耳であり、そして許せない事態であった。
「そ、そんな話オレ初めて聞きましたし、ウチは他に居候がいて、財政が厳しくて……」
「そうだ! いくら同盟だからって10代目の家に泊まり込むなんてなぁ!」
「は? しかし、10代目から許可は出ていると……」
ツナの家に来て、ずっと高飛車な態度だったが、急に焦り出す。
「オレがママンと相談して決めたんだぞ」
「ん?」
今までツナの横で黙って聞いていたリボーンが、の足元まで歩み寄って言った。は、リボーンを見るなり、目を輝かせる。
「あ! リボーン! そっか、あの後ボンゴレに帰ったんだもんな……ってことは、ディーノの時みたいに家庭教師やってんの?」
「あぁ、まーな」
「え? ちょっと、ちゃんと解説しろよリボーン」
今まで認識のないものと思っていたふたりが、見知った仲のように話だし、ツナは正直うろたえた。
「ディーノの家庭教師をしていた時、ディーノのお気に入りだったの教育もしてやってたんだ。たしか2年間だったか?」
「そうだな……」
懐かしむように笑う
……たしかリボーンがディーノさんのところから離れたのが2年前。
……2年振りにコイツと再会しても、オレはこんな風には笑えないな。
ある意味で感心するツナである。
「って、は? 相談して決めたって、なんでオレなしでなんだよ!?」
「いいじゃねーか。が居候することで、キャバッローネから居候全員分の生活費が出るんだ。家光の収入と一緒に送られてくるはずだぞ」
「あ、やっぱり間違いじゃなかったのか。よかった」
「よかったで済むかバカ!」
が安心していると、獄寺がの胸ぐらを掴み、叫んだ。
「お前といい、跳ね馬といい、10代目をなんだと思ってんだよ!」
「……うるさい」
顔をそむけ、耳をおさえる。それに獄寺は更に激昂し、
「喧嘩売ってんのか、オラ!」
とダイナマイトを取り出した。
「ヒィィイイイ! オレんちでダイナマイト出さないで!」
「ん? いいね、久々に手合わせするのも」
ツナの嘆きを完全に無視し、は自らの得物を握る。
「相変わらずピンなのか」
「え? ピン?」
ツナがよく見ると、の拳をつくった指の間には、黒いヘアピンが挟まっていた。
「エッジがついていて、触れれば相当な傷がつくぞ。小さいからわかりにくいしな」
リボーンが冷静に解説するのに対して、ツナの顔は青ざめていく。
「果てろ」
獄寺がダイナマイトを放つ。はニヤリと笑い、ピンをダイナマイトの導線に擦らせていった。動体視力の高さが伺える。
「ダイナマイトじゃ壊せない」
ダイナマイトの導線は切り離され、ダイナマイトは爆発することなく落ちる。
「なっ……」
獄寺は後退りし、階段を駆け降りていった。はそれについていく。
「ちょっ! やるなら外でやってくれ!」
に続いて降りると、玄関前でが獄寺の腕を掴み、
「残念。少し期待してたんだけど」
と、獄寺の喉元にピンを構えていた。
「テメェが強くなりすぎなんだよ!」
「日々鍛練は欠かさない。かれこれ4年間訓練を毎日続けてるさ」
「は!? ……でもよかった……」
ボムで爆破されなくて……。
「ふざけんな。これで終わらせるかよ」
「そう来なきゃ」
獄寺はボムを持ち直し、は心底楽しそうにしていた。
「そう来るなー!!」

ぴーんぽーん……
「ちーっす、ツナ、いるか……あ?」
チャイムを鳴らして勝手知ったる人の家とばかりに出迎えなしで入ってきたのは、野球のユニフォーム姿を着て、超爽やかスマイルを展開している少年だった。
「や、山本!?」
「……チッ」
「悪いな。今お取り込み中なんであと59年たったらもう一度来てくれない?」
「あ、そっか、そりゃー悪かった」
「ちょっと待った! 冗談真に受けないで!」
「冗談じゃないですよ。さっ、次は何をしてくれるの?」
「ヘッ、ボムがダメなら肉弾戦だっ!」
そう言って獄寺はを殴ろうとする。まるで擬似メリケンサックのようにゴツい指輪をいっぱいにつけた右手で。
「つーかさっき出したボム意味ないじゃん!」
は眼前まで来た拳を軽々とかわし、横を通過した右腕を受け止め、獄寺の足を払った。
「もうオレんちで乱闘やめて! 誰か助けて〜」
ツナの嘆きの後、ふたりの間に山本が入っていった。
「え? 山本?」
双方の利き腕を取り、
「まーまー、人ん家の中で暴れるのはまずくねぇか? そもそもなんでこうなったんだよ」
と仲介に入った。
「ケッ、テメーには関係ねーよ。な、
「うんうん。ただ隼人が喧嘩売るから買ったまでさ。つーかお前誰だよ」
「な! 元はと言えばお前が10代目の家に泊まり込むなんてこと言うから……!」
「だからよ、そうやって人のせいにするからいけねーんだって。わかったか? 獄寺、。あ、ちなみにオレ山本武な」
「初対面で名前呼ぶな、武!」
「……もう疲れた……」
獄寺はツナ「疲れた」に激しく反応、山本とは名前について軽い口論になり、いつの間にか泊まり込みの件は収まっていた。


「初めまして、奈々さん。これからお世話になります」
「あら、いいのよ〜。可愛い子が増えて嬉しいわ」
奈々が買い物から帰り、は挨拶をしていた。すると、獄寺と山本がに詰め寄ってこう言い出した。
「なぁ、オレと山本、どっちが10代目右腕に相応しい?」
「えー、オレ的には武だな、隼人はオレの嫁だから」「はぁ!?」
……ツナは、ただならぬ不安を感じていた。