並盛町には、暗黙の掟があります。
それが普及し始めたのはほんの数年前なんですがね?
知らない人には同情します。はっきりいって、知らないと地獄に堕ちます。
あと…私達、子供にもかなり迷惑な掟なんですよ。
ほかの町なら普通にできることでも、並盛じゃあ命取り。
えーと…とりあえずその掟を挙げちゃったほうが早い…ですよね。

・5月5日は端午の節句である。「こどもの日」と言ってはならない。
・武者兜及び、鯉のぼりを飾ることを禁ずる。

…ね?私としては、この掟を制定した人がとても憎いです。
私は女の子ですから、ひな祭りとかありますけど、男の子達にとっては、自分達がメインになる日が無くなったも同然なのです。
…で、掟を知らなくて「こどもの日」宣言したり、鯉のぼりや武者兜を飾ってしまった人はどうなるかについてなんですけど…。
聞いて驚いてはいけません。覚悟して下さい。

家が取り壊されます。

実際、何軒かが一夜のうちに壊されているところを目撃したんです。酷い仕打ちだとは思いますが、誰も文句は言いません。

その掟は、並盛の支配者、雲雀恭弥さんが制定したんですから…。

5月5日の過ごし方



雲雀さんの決定は絶対だとずっと言われてきました。
何故なら、守らないと「咬み殺」されてしまうからです。
どうやらそれは罰のようなものらしいですが、私は見たことがありません。
目の前で執行されかけたことはあるんですがその時に近くに居た大人が目隠ししてしまうのです。
でも、耳でしっかり聞きました。

雲雀さんの命令に背いた人の、叫び声を。
骨が折れる、ある意味で痛快な音を。

あのキレイで細くて、なんとなく身体が弱そうな人が、人の骨を折れるのかと、今でもフシギです。
人は見かけによりません。

そして、今年もその端午の節句が近づいてきました。
いよいよ、明日。
でも、並盛では端午の節句らしい行事ができないので、みんな普通の生活をしています。
私もお友達のみんなと遊ぶつもりで、並盛公園へ行きました。
「おはよー!沙織ちゃん、悠斗くん、ねーさん!!」
沙織ちゃんと悠斗くんは、並盛小学校のクラスメイトです。
そして、ねーさんは私達の頼れるお姉さんです。
ちなみに、私の名前は江里香。みんなからは江里と呼ばれています。
「おはよっ!!江里ちゃん。」
元気な沙織ちゃん。
「おせーんだよ江里。」
ちょっと意地っ張りな悠斗くん。
「まーまー、悠斗落ち着けって。江里だって遅れたくて遅れたわけじゃないもんね?」
少し男の子みたいなねーさん。
ねーさんは並盛中学校に通っていて、雲雀さんと知り合いなんだそうです。
「ごめんね、みんな。…で、ねーさん。」
「ん?」
「今日はどうして私達を集めたんですか?」
今日はねーさんが私達を招集したんです。『見せたいものがある』って―。
「あぁ、それか。家にくれば分かるよ。行こっ。」
私達はよくわからないままねーさんの家に向かいました。

「うわぁ…。」
「マジかよ!」
「…これ、大丈夫なの?ねーちゃん。」
「大丈夫!!私にとっては、雲雀の掟なんて大した意味を持たないんだよ。」
私達の不安をよそに、ねーさんは胸を張って言いました。
ねーさんの家には…大きな鯉のぼりが。
雲雀さんを敵にまわせるなんて…凄いです。
並盛に鯉のぼりが上がるなんて並盛町民全員考えたこと、無かったと思います。
だからでしょうか、近所の人たちがたくさんねーさんの家の回りに集まってます。
「え…これ、鯉のぼりだよね?」
「そうだなー…それにしても立派なのなー。」
「つーか…これじゃヒバリの掟に…。」
「鯉のぼり見るの、久しぶりだなぁ…。」
「うむ。ヒバリが風紀委員長になって以来だからな。」
「ねーあれって食べれるんれすか?」
「…帰るよ。」
カメラで撮影していく人たちもたくさんいます。でも…これじゃあ、ねーさんの家が…。
「なーなー、ねーちゃん。」
「何?悠斗。」
「鯉のぼりなんか飾ってたら、雲雀さんに家ぶっ壊されちゃうぜ?」
悠斗くんが聞いた後に、私と沙織ちゃんもうんうん、とうなずきます。
「明日一日中起きてるから、大丈夫。明日が終わったら片付けるからね。」
「でも、雲雀さん凄く強いよ?ねーちゃんボコボコにされちゃうよ!」
沙織ちゃんの言葉に、ねーちゃんはフフ、と笑うと、沙織ちゃんの頭をなでて、言いました。
「平気だよ。私は雲雀より強いから。」
自信満々に言うねーさん。ニコニコしているけれど、私達はやっぱり不安です。
ねーさん…。」
「…なーに不安そうな顔してんの?江里、私は全然強いから。雲雀なんか、傷ひとつ食らわずに追い返しちゃうよ?」
私の視線に合わせて腰を低くするねーさん。私の両腕をギュッと握って、言いました。そのあとに、指切りをして、
「はい。約束破ったら私、ハリセンボン飲んであげる。―さぁ、帰った帰った!!あんたらの家なら家の鯉のぼり見えるから、ね!」
そういって、無理矢理帰されてしまいました。
家に帰ると、確かに大きな鯉のぼりが悠々とはためいています。
明日…鯉のぼりが倒れてないといいのですが…

from沙織
「おはよ〜!江里ちゃん悠斗くんねーさん!!」
「おはよう、沙織ちゃん!」「おせーって言いたいとこだけど…ねーちゃんきてないからな…。」
「…。」
並盛公園を見回しても、ねーちゃんは何処にもいない…。
もしかして…ねーちゃん雲雀さんに…。
「おっはよ〜皆鯉のぼりどうだった〜?」
後ろを振り向くと、ねーさんは無傷で私達に手を振ってくれて…。
「ん?みんなどうした?」
私達のすぐ近くまで寄ってくると、首をかしげて私達に聞く。
ねーさん…お家、大丈夫?雲雀さんに壊されませんでした?」
「…あぁそれか!江里、それは、昨日約束したでしょ?傷ひとつ食らわずに追い返すって。」
ねーちゃんは今までそれを忘れていたかのように、手を叩く。
「あぁ…て…忘れてたのかよ。」
「うん。だってそんなに大した事じゃなかったから。」
「えー!!」
強いなぁ…ねーちゃん。私も、こんな強い人になれたらいいな…。
「でも、雲雀さんをどうやって追い返したんだよ?」
悠斗の質問に、ねーちゃんは口に人差し指をあてて返す。
「それは、恭弥との秘密なんだ。ほら、アイツが負けたなんて、絶対認めないから…ね。」
その返事に私達はえー!!と声をそろえた。
「なんだよケチー!」
ねーさんの武勇伝聞きたいです…。」
「ねーちゃんずるいなっ!」
「でも、江里達との約束は守ったでしょ?恭弥との約束も、きちんと守らなきゃいけないし。」
ムクーッと頬を膨らましてる私達を見て、ねーちゃんは笑い声を漏らす。
「ハハハッ。そうだな…みんなが私ぐらいになったら教えてあげる。」
「なんだよそれー。まだ何年も先だぜ?」
「それまで待てないよ!ねーちゃん!」
「…でも、それが雲雀さんとの約束なら、仕方ありませんよね…。」
私と悠斗が喚く中、江里ちゃんは呟いた。
「う…まー、そうだけど。」
「チッ。ねーちゃんは勝ったのに、オレ達はまだ先かよ。」
「まーまー、そういわないの。今日はあんた達の日だからねっ。思いっきり遊ぶ相手ならしてあげる。」
うなだれる私達を見て、ねーちゃんは言った。
「え…?」
「今日はこどもの日、だろ?」
私達は、その言葉を言う許可が下りた事を聞いた。それを知って、もう雲雀さんとねーちゃんがどうしていたかなんて、興味がなくなった。


5月5日未明。
並盛町内に鯉のぼりが立っているという知らせを聞き、家を取り壊しに雲雀はバイクで疾走していた。
「最近新しい入居者の知らせは来ていない…ということは、掟を知ってるはず…。」
それにも関わらず、鯉のぼりをたてるなんて…僕への宣戦布告だね。
夜で暗いなか、不気味なくらい綺麗に笑う雲雀。

草壁に聞いた場所は…ここか。
バイクを止めると、雲雀はその一軒屋の塀を軽く飛び越える。
「待ってたよ、雲雀恭弥。」
飛び越え、敷地内に入った。すると、背後から声がする。振り返ると、暗くて見づらいが塀に少女がもたれかかっていた。
「…君かい?僕に喧嘩売ったの。」
「うーん…喧嘩とはまた違うんだけど。でも、あんたを呼び出すにはこれが一番手っ取り早いじゃん?」
つくづく不思議な少女だ。と雲雀は感じた。
一見すると、どこにでもいる普通の女だ。殺気も感じられない。なのに、自分は彼女に指1本触れられない気がした。
「へぇ…鯉のぼりの報告を聞いてから不思議には思っていたけど…面白い思考を持ってるじゃないか。」
「それは褒めてくれてるのかな?なら喜んで受け取っておく。」
「君…名前は?」
「塀にかかってる表札見なかったのかな?っていうんだよ。」
「それくらい分かってる。下の名前を聞いてるんだ。」
「あぁ…そっちか。私の名前は、っていうの。以後お見知りおきを。」
「今から取り壊す家の子供の名前なんて覚える必要ないね。」
「あれ?私に興味あるんじゃなかったの?…つまんないな。」
事実、興味がまるでなかったわけではない。もっと強そうな人だったら闘うつもりでいたし。でも…こんな草食動物、相手するだけ無駄。
「興味?そんなのないよ。僕が興味あるのは、強い人だけなんだ。」
「なんだ…なら、仕方ないね。…でも、呼び出したのにはちゃんとワケがあんだからね。それ聞くまでは家を壊させたりしないから、覚悟しておいて。」
「なんの覚悟だい?」
「きっと普段とは違う刺激を受けるだろうからね。」
「…?」
すると、少女はしゃがみ込み、足元にあった黒い箱を拾い上げた。暗くて見づらく、少女が拾うまで雲雀は気付かなかった。
「今日はなんの日だ?」
少女は楽しそうに聞く。雲雀は少しムッとしたが
「…端午の節句。」
と答える。
「うん。予想通りの返答。それ以外の答えだったらちょっと引いたけど。」
「なんのつもり?」
「んーとね。これを雲雀恭弥にささげようかな、と思いまして。今日は端午の節句…こどもの日でもあるけれど、雲雀恭弥の誕生日だからね。」
少女が箱のふたをあけると、雲雀は珍しく目を大きく見開いた。
「…ケーキ…?」
小さなホールケーキ。シンプルな形だが、色は少し濃い緑色。
「大当たり。甘さ控えめ…きっと雲雀さんが好きそうな宇治抹茶を振りかけたレアチーズケーキ。」
「勝手に人の好みを判断しないでくれるかな。」
「無粋だな。これでも結構調べたんだからね。最初は和菓子にしようと思ったんだけど、失敗して。」
「…手作りなの?」
「勿論!私の特技は料理だからね。」
偉そうに胸を張る少女。雲雀は特に感じることはなかったが、いつの間にかケーキに目がいっている。
「…こちらどうぞっ。」
器用に切り分け、そのうちのひとつを皿とフォークと一緒に雲雀に差し出す。
「食べたいんでしょ?宇治抹茶…ちょっとかけすぎて香りがよくとんで…それに釘付けなんだよね!」
「…わかったような口を利かないで。」
そういいながらも、皿を受け取り、ケーキを口に含む。
レアチーズの味も、宇治抹茶の味もうまく調和している。少し酸味が利きすぎているような気もするが、宇治抹茶の苦味がすぐに消して…。
「おいしい…。」
「だろうね。なんたって腕によりをかけて作りましたから。」
「関係ないと思う。」
「なっ…うるさいな!でも、料理の腕は確かなんだよ!」
「自分で言うのもどうかと思うな…でも、これとあと、人間性があればすぐに嫁にいけるんじゃない?」
「え…っ。」
少女は少し顔を赤くし、「なにが言いたいんだよ。」っと照れ隠しに言う。
「…今度から、僕の事は恭弥って呼びなよ。言わないと、今日の罰はすぐさま執行するからね。それと…。」

の周りのちっちゃい奴らぐらいになら、こどもの日の楽しさ…ていうものを味あわせてあげでもいいよ。」

「…今日のことは内密に。僕の威厳が損なわれる。一度失ったら取り返すの…結構面倒だから。」
勝手に言いたいことを言って、雲雀は入ってきたときのように塀を飛び越え、バイクを走らせていった。
「……。」
が自分の手を見ると、さっきまであったホールケーキは箱ごとなくなっていた。
「…器用な奴…でも、目的は果せたし、いっか。」

彼女の目的は2つ。

ひとつは、チビ達にこどもの日を楽しんでもらうこと。
そしてもうひとつは、雲雀の心を掴むこと。

チビ達のことについては、ついでだったけど。




バイクの上で…。
人間性…全然あるけど。僕の心を釘付けにしたのは、ケーキじゃなくて、…君なんだから。
応接室に戻って、あの鳥がいたら少しあげようかな…。僕1人じゃ流石に食べられないかもしれないしね。



HAPPY BIRTHDAY DEAR 雲雀さん!!

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