卒業式はすでに終わっていて、卒業生は最後の学校を歩き回っていた。
私は、早々に学校を後にし、家周辺や小さい頃遊んでいた公園を低い姿勢で歩き回っていた。
「ないなぁ…やっぱり、今更探しても駄目かなぁ…。」
幼いながらに思いを抱いていた、あの人とよく遊んでいたボール。
なくしたのはいつか覚えていない。でも、気付いたら無くなっていた。
公園の桜の木にもたれて、私は深い溜息をついた。
あれは…私の一生の宝物だ。思いを寄せていたあの人は、変わり果ててしまった。
今じゃ、遊んでくれることは愚か、通りすがっても挨拶を返してくれない。
分かってる。彼は、彼なりに愛するものがあるのだ。分かってるから、無理に求めたりしない。でも、今日でお別れなんだ。進学したら、学校による時間が無くなる。そうしたら、彼には会えない…。
だから、あのボールを彼に重ねて、近くに彼がいるという勝手な思い込みをして毎日を過ごしていこうと思っていた。
そして、押入れにつまってる小さい頃のおもちゃを掻き分けながら探していた。結局、見つからなかった。
せめて進学する前に見つけたい。そういう思いでありそうな場所を探した。でも見つからなくて、最後の望みを懸け、懐かしい公園を訪れた。
そこにあったのは、錆び付いたブランコと滑り台、大きな桜の木。そして、想い出。
思わず涙を流してしまった。どこよりも彼との想い出がつまった場所。あの頃はまだ真新しかったブランコで遊んだり、滑り台を一緒に滑ったりした。
ボールを投げ合って、キャッキャ言って、楽しかった。
「あいつは、覚えてるかな…。」
つぼみが開きそうな桜の下。ここでよく話したね。君は、私にいっぱい話してくれた。
今は、そっぽ向かれても、君の顔を見られただけでうれしかった。
もう一度溜息をつくと、私は腫れた目をこすって、立ち上がる。
あきらめよう。学校も、彼への思いも、卒業だ。
また新しい恋に生きればいい。彼だって、意外に私の思いに気付いていて、それがうざったかったのかもしれない。
「そうだ、きっと、そうだ―。」
この公園にも、もう来ない。思いがはち切れそうになるから。大袈裟だと思ってくれても構わない。
この恋も、彼と過ごした時間も、とても長かった。
「よし、今からでも学校を練り歩くかな!」
うん。この自分が一番自分らしい。友達と一緒にいれば、きっとふんぎりが―
「やっと見つけた。探したよ。」
「!!」
「卒業、おめでとう。さん。」
背後の公園の入口から聞こえる声。それは紛れも無い、大好きな人の声だった。
「君の事だから、群れの中にいると思って咬み殺したいのを我慢して群れの中を探したのに…見当違いだったよ。」
だんだん近づいてくる声。でも、さっきの「卒業、おめでとう」が何度もリピートされて、彼の声が聞こえなかった。
それでも、声を振り絞って、
「さん、かぁ。あの頃はちゃんって呼んでくれたのにね。」
声が震えていたように思う。だけど、彼の返答は私の声の震えをまるっきり無視していた。
「そうだっけ?」
いつの間にか、すぐそばに彼の声が聞こえて、私と彼は、桜をはさんで背中合わせになってるみたいだった。
「今まで声かけても無視してたくせに。」
「…そんなに構って欲しかった?」
「……。」
何もいえない。図星だってこともあるけど、答えてしまうと、離れてしまうような気がした。
「僕がどうして君の事を探したか分かる?」
「知るわけないじゃん。」
「…そう。」
彼は黙っちゃって、私も黙ったままで、気まずい時間が流れる。
今すぐにでも、に飛びついてやりたい。そう思ってたけど、体がこれ以上動かなかった。
人を咬み殺すのは楽なのに、どうしてもっと簡単なことができないんだろう。
「恭弥君。」
「なに?」
「どうして私の事探してたの?」
「…卒業祝いに、プレゼントがあるんだ。」
やっと聞いてくれた。その質問がきっかけで、僕の体はすっと軽くなった。
桜の木を回って、のすぐ近くにまで近づく。
の顔には涙の筋があって、悲しそうに眼を伏せていた。
「はい。」
そういって恭弥君が差し出したのは、さっきまでずっと探していたあのボールだった。
「これ…」
「そう、覚えてた?僕達が小さい頃に遊んでたボール。」
「な、んでこれが?」
「僕がずっと持ってた。本当は君のなのに。僕が風紀委員になる時、もう遊べないと思ったんだ。だから…ごめん。勝手に持ち出しちゃった。」
ふわっと、なにかが私を包み込んだ。すごく驚いて、眼をつぶってしまう。
「僕、君の事となると、体の制御が利かなくなるんだ。勝手に体が動いちゃったり、なにをしても動かなかったり…。」
耳のすぐ近くに恭弥君の声が聞こえる。息が耳に当たって、くすぐったい。
そっか、私を包み込んでるのは、恭弥君なんだ―。
「最近、僕の周りにとても面白い人が来てね、強かったり、弱かったりする、変な人なんだけど。その彼がね、僕がどうしてこんなことになってしまうのか、教えてくれたんだ。」
「僕は、が好きなんだよ。」
包み込んできた時と同じように、恭弥君は私をそっと放してくれた。
私は、なんだかわけが分からなくなって、頭の中がぐるぐる回っていた。
「僕はが好きだ。いつから、どうして、そんなことは分からない。でも、これだけは分かる。僕は、なしじゃ生きていけないんだよ。」
もう一度言われて、やっと気がついた。これは、告白だ。
それに気がつくと、私は落ち着いてきて、頭も冷静になってきた。
「恭弥君。今度は呼び捨てになったね。」
「あ…。」
それに今気がついたのか、恭弥君は、顔を真っ赤にさせてしまった。
「気付かなかったの?」
好きだって言った時は全然普通だったのに。
「つい…興奮して。」
「へぇ、そうなんだ。意外と感情的だね。…そうだ。私も、恭弥君の事、恭弥って呼んでいい?」
「…え?」
「あっ…。」
私、ノリですごいこと言った!!きょ、きょきょきょ、恭弥って…呼べるわけ…それに、恭弥君がいいよっていってくれるわけ…
「いいよ。」
「え、いいの?」
「好きな人に名前で呼んでくれるのって、すごくうれしいし。」
そうだ…恭弥君がさっき告白したの、忘れてた。…ってことは、私、返事しなきゃ…。私、恭弥君の事好きだけど、でも、恭弥君に似合う彼女になれるかわなんないし…。
「…さん。」
「あ…え?」
また、『さん』がついてしまった。
「返事は…もし迷ってたら、今じゃなくていいから。次は、無視しないから…。いつでも、声かけてね。」
そういって恭弥君は、静かにボールを私に渡して、少し切なそうな顔をすると、私に背を向けて、公園を出ようとした。
どうしよう。私も好きだって、伝えなきゃ。恭弥君に似合う彼女だとか、そんなんじゃなくて…。
「きょ…恭弥!!」
「え…。」
恭弥君はビックリした様子で振り返ったけど、それ以上におどろいてたのは、私だ。
ええい、もうどうにでもなれ!!
「恭弥!!私も、恭弥が好きだから!!」
「あ……さん?」
「だから、えぇと…好きだから、その…。あぁもう、なんていえば…。」
「…もういいよ。。」
「はい!?…んふっ」
突然視界が真っ暗になって、体が動かなくなって、その勢いでボールを落としてしまった。…て、もしかして、また恭弥君に、抱きつかれてる?
「僕も…好きだ。ずっと、離さないから。」
さっきよりもずっときつくて、潰されてしまいそうだった。でも、不思議と嫌じゃなかった。
「恭弥く「恭弥じゃないと駄目。」
「…恭弥…私も好きだよ。私、高校行っちゃって、並中になかなかこれないけど…。」
「その点は心配しないでいいよ。」
「え?」
「僕もと同じ高校に行くから。」
「で、でも並中は…?」
「風紀委員は高校に行きながらでもできるからね。」
ずっと抱きしめられながら、こんな会話してたら、少しおかしいと思う。でも、私は恭弥の体温で暖かかったし、うれしかった。
もう日が暮れてしまう。その光に照らされて、ボールは真っ赤になっていた。
なくしてあきらめたボール
風景描写がなくて分かりづらいなぁ…とつくづく思います。
とりあえず卒業式の日の夕暮れなんです。
ちなみに雲雀のいう変な人は彼の家庭教師です。
恋愛についてはきっと雲雀より上手ですよね。
…と思ってるのは私だけですか?