標的7・大お泊り会
「ここが……オレんち」
「……意外に普通の家なんだね」
「はぁ? それどういうこと……?」
「だってボンゴレの次期ボスだから……」
「オレはボスになるっていつ認めた?」
「また……恥ずかしがらなくても」
「違うから!」
は大きめのボストンバックを携え、ツナの家に来ていた。
どことなく不安そうに、しかし楽しそうに視線でツナの家を舐めていた。
因みに、ツナの家に訪問するのは初めてである。
「よく来たな、」
リボーンは縁側に腰かけ、エスプレッソコーヒーを飲んでいた。
「リボーンから言われたら、行くしかないから……でも、夜になったら帰る、とかダメ?」
ツナは、引っかかりを感じる。が"夜"をわずかに強調したような。
「それは無理な相談だな。今日は、意地でも泊まってもらうぞ」
「はぁ……」
は肩を落とし、リボーンに誘われるままにツナの自宅の玄関をくぐる。ツナは、その後に苦笑しながら続いた。
さて、時は遡り、昨日の晩のことである。
ツナが夕食を終え、自室に上がろうとしたとき、
「ツナ、ちょっといいかしら?」
「んー何、母さん」
「実は、この間応募したキャンペーンに当選して、九州に行くことになったのよ!」
「……へー、よかったじゃん」
ツナとしては、さっさと部屋に行って、先日借りたCDを聞きたいところなので、適当に流していた。
しかし奈々の口からは、どうも流せない台詞がこぼれた。
「実はね……明日から一泊二日行くことになってるんだけど、その間は、自分でご飯作ってほしいのよ」
「……は?」
「ごめんね〜、ペアチケットなんだけど、お母さんの古い友達と約束してて……だから、ツッくん達は連れていけないのよ〜、よろしくね♪」
「ちょ、そういう大事なことはもっとはやく、」
ツナの訴えもむなしく、急いで準備しなくちゃ〜。と鼻唄混じりにリビングへと行く奈々。
ツナは、諦めてのろのろと自室に引っ込み、ベットで銃の手入れをしていたリボーンに声をかける。
「なぁ、リボーン」
「オレは料理なんてできねーぞ」
「……なんでわかったんだよ」
「今朝、ママンから旅行のことを聞いたからな。いずれ聞かれると思ってたんだ」
「は? 身内のオレよりもさきにお前に言ったのか?」
「オレはお前の家庭教師だからな」
「関係ないよ!」
不機嫌そうに眉をひそめるツナに、リボーンは
「そう落ち込むな。ママンの代わりに、食事の世話してくれる奴に連絡とってあるからな」
と言った。ツナは、顔をあげる。
「……それ、本当か?」
「あぁ、本当だぞ」
最悪、カップラーメンでしのぐか……と覚悟していたツナにとって、それが本当なら最高の知らせである。
「それって、誰? まさかビアンキなんて言わないよな」
「安心しろ。ビアンキじゃねぇ。だが、明日までのお楽しみだ」
「は……?」
「明日の放課後、並中で待ってたら来るからな。そいつを家に連れてこい」
まさかだとは思わなかったけど。
「晩ごはん、何食べたい?」
は腕をまくり、キッチンまわりを確認していた。
「今から買い物行くから……できるだけ具体的に言って欲しいんだけど」
「えー……インスタントで食べられないものならなんでも」
「え? なによそれ〜」
大体、今の世の中インスタントで食べられるものなんてたくさんあるんだから……。
はそう愚痴りながらも、まくっていた袖をおろし、でかける仕度をする。
「あ、じゃあオレも行くよ」
「そのほうがいいかもね。リボーンはどうする?」
「オレは行かねぇ。ついでにアホ牛達の散歩もしてやれ」
リボーンが言うと同時に、ランボとイーピンがかけよってくる。
「あれ、この間の……」
「あ……ラ、ランボさんやっぱり いくのやめる!」
ランボは、瞬時のうちにツナの足にしがみついた。
「なにやってんだよランボ!」
「だってだってだってぇ〜」
「まぁ……無理ないよツナ。私この間コイツに弾撃ったから」
「……え?」
はしゃがみこみ、両手を広げた。
「ごめんねランボ。このあいだは知らない人だったから、悪い人だって思ったの。買い物で欲しいもの買ってあげるから、いっしょに行こ?」
最後に綺麗に微笑む。その姿を見たランボは、ツナの足から離れ、に近寄った。
「……ホントに、ほしいもの かってくれる?」
「もちろん! 私は嘘ついたことないの。嘘なんて人を傷付ける道具にしかならないからね!」
とてとて、とランボが手の届く範囲にまで近付くと、はランボを抱き締め、
「つかまえた!」
と声を張った。
「おまえ なんてなまえ?」
「私は、」
「?」
「そ。そっちはイーピンだよね?」
「★&%◇※!」
『そうです。さん、よろしくお願いします』
リボーンが訳す。
「よろしく!」
「すごいや、すぐなついちゃった……」
ツナが驚いていると、
「よし、じゃあ行こっか」
と、が言った。
「あ、うん」
ツナ達が夕食のメニューを考えながら買い物をしていると、のバックからスローテンポのメロディーが流れた。
♪♪♪......
「はいー」
は、"あー"や"ふぅん"などと相づちをうっていた。
「うんうんわかった。じゃあね……うん。だから9人分ね。わかったから。じゃ」
と、電話を切った。
「んー9人分もとなると、カレーが妥当かな……あ、でもあれもいいか……」
は、あれこれ言いながら商品棚を物色していった。
「あずさー! はやくオレっちのかうんだもんね!」
ランボとイーピンは、素早くについていくが、ツナは、カート引きをしていて(しかも壊れているのか、カートがあらぬ方向へ曲がっていくので)、なかなか後を追えなかった。
「ちょっとツナー! はやくしてよ!」
「そんなにいそぐことないだろ!」
「そうもいかないの! 9人分の夕食作らなきゃいけないんだから!」
「9人分……?」
だって、オレにリボーンににランボにイーピンに……多くても5人分じゃん。
「リボーンがあと4人くるからって!」
豚肉、じゃがいも、にんじん……は様々な食材を、どんどんカートに入れていく。
それにともない、カートの動きはさらに悪くなり、ツナはフラフラと歩くようになった。
「あたっ!」
ガシャーン!!
ツナは派手に転び、カートの中のものをあたりに散らかした。
「はぁ……」
「ガハハハハ! ツナのバーカ! バーカ!」
はため息を吐き、ランボはツナの背中に乗り、跳び跳ねていた。
「早く立ちなよ、片付け手伝うからさ」
「あぁ……うん」
恥ずかしい……と思いながら具材の回収をする。イーピンも手伝って、すぐに状態は元通りになった。
ランボは、近くのお菓子コーナーにいて、飴玉の詰め合わせに釘付けになっていた。
「おい、ランボ行くぞー」
ツナが声をかけるが、無視。
「ランボ、飴好きなの?」
「うん」
がランボの隣までよってしゃがむと、ランボは返事をした。
「じゃあ、買ってあげようか」
「ほんと!?」
「ホントだって。でもお利口さんにしてないとね」
「ランボさんおりこーだからアメ買って!」
「はいはい」
ツナは思わず感心する。家を出る前といい、は面倒見がいいのかもしれない。
「これくらいでいいかな。じゃ、精算しよ」
ランボと飴の袋をかかえ、はリボーンから預かっていた財布を取り出した。
「ただいまー」
「おかえりなさい、10代目!」
玄関を入ると、獄寺が目を輝かせて待っていた。
「ヒィッ! 獄寺君!」
「じゃあ、獄寺も晩ごはん食べるんだ?」
がいるのに気付かなかったのか、の声を聞いた途端に目を泳がせ始めた獄寺だったが、
「あぁ、リボーンさんが飯食いにこないかって……まさかもいたなんて」
「え、じゃあが夕食作るのも知らなかったの?」
「マジっスか!?」
ツナにおぶってもらっていたランボが顔を出し
「アホ寺がまっかっかのタコになったんだもんね」
と獄寺をからかう。獄寺はそれに強く反応して
「うるせーぞアホ牛!」
とランボの首を絞めようとしたが、はその獄寺の手首をつかみ、
「はいはい、遊ぶのはそこまでにして手伝ってくださーい、今日はまだ人がいっぱいくるからー」
と場を治めようとする。
「どこが遊んでんだよ!」
「え? だってランボの相手してたんでしょ? それはそれでいいけどね」
「は? だから遊んでねぇっつの」
「え……違うの?」
は目をぱちくりさせる。その表情はどう見ても演技には見えず……
"……もしかして天然?"
なんてツナは思っていた。
ピーンポーン
玄関のチャイム音が鳴る。ツナが開けると、少し意外な組み合わせの男女ふたり組がいた。
「未来の妻をさしおいて、ツナさんの家でディナーを作るなんて、誰がそんな失礼なことをしているのですか!!」
「よっ、ツナ」
「や、山本とハル!?」
つーかいつ未来の妻になった!?
「アホふたりかよ」
獄寺が呟くと
「はひ! 誰のことですか!」
「はひはひうるせーからアホだと思われんだよ!」
「まーまー、とりあえずあがろうぜ」
「あ、そうですね。玄関で騒いでいたらマナーがバットですよね!」
「ハルもひとつ成長したわね」
「そうですか!?……はひ? 誰でしょう、この声は」
そう、ハルを褒めるその声は、いままでツナの玄関で響くことのなかった声であった。
しかし、ツナは悪寒を感じる。上から、そう、上から。
誰も気づかないその様子。そりゃあそうだ。誰も自分の命を狙われたことなどないだろう。「彼女」からは。
上を見なければならない。そして叫ぶんだ。
「……ビアンキ」
シャウトのはずが、ウィスパー(囁く)程度になってしまった。そんな声、誰が聞こえただろう。
天井裏が見事に剥がされ、二階からビアンキの顔が覗かれていた。いつの間に人ん家の床剥ぎやがった。
あまりの怖さに(というか非常識な行為に)声が出ないが、山本がツナの異変を悟ると、
「あ」
などと素っ頓狂な声を放った。まぁ、山本からしてみても恐怖の存在だが、彼の声のほうが若干大きい。よって、ビアンキの襲来は皆に知らされることとなる。
「ふげーッ!!」
「あら、隼人、大丈夫?」
「獄寺、大丈夫!?」
獄寺くん、卒倒。ああ、そういえばにも説明してあげないと。
対処のしようがないだけに、ツナは獄寺が倒れるのを見ても眺めておくだけにとどめていた。
「はひっ、獄寺さんが!」
「ツナ、どこか寝られる場所を貸して!」
ビアンキが叫ぶ。これこそシャウト。
「あー、あの奥の部屋は空き部屋だから大丈夫だと思う」
適当に指差して、獄寺がビアンキに引きずられる様を見送る。
まぁいいんじゃない? 姉弟仲を良くするのも。(無理なのは理解の上で)
ビアンキの後をついていこうとする女性陣(+ランボ)に声をかけ、
「後はビアンキだけで大丈夫だから、獄寺君が元気になったときに食べられるように、夕飯のしたくしよう」
「……うん。あの人に任せて、晩ご飯つくろうか」
「はひ、そうですね、ビアンキさんがいたら獄寺さん、すぐに元気になりますよね」
ふたりは同意した。しかし、すぐにハルはなにかに怒ったように言う。
「あっ、あなたがツナさんのディナーを作る人ですかっ!!」
「そうだけど」
「このハルを差し置いて! ツナさんに色目を使っても無駄ですよ! ツナさんにはもう、ハルというワイフがいるんですから!」
「な! ハル、失礼だぞ! 色目なんて……!」
熱く言うハルに、は逆に冷めた眼で言う。
「別に、リボーンに頼まれただけだけど」
「え、そうなんですか……?」
「うん。別にあなたが作ってくれるんならいいけど」
そういいつつも、リビングに荷物を置いて、髪を結ったりと、料理の仕度を始めた。
ハルは、不機嫌そうに眉をひそめている。
少しすると、包丁がまな板を叩く音がする。
「アイツの料理の腕はスゲェもんだ」
ふと湧いてきたようにリボーンは現れ、言った。
「へぇ……」
料理が好きそうな感じはしてたけど……。
「そして手早い」
リボーンが言った途端、ガスが付く音がして、甘い匂いがするようになった。
「あと5分で終わるから、テーブル準備してー」
「嘘! 早すぎだろ!」
「はひ……リボーンちゃんの言ったことは本当みたいです……」
ツナとハルが唖然としているところに、リボーンが
「はやくテーブル出しやがれ。今日は9人だぞ」
といいながらツナを蹴った。
「痛っ! お前はもう少し穏便にできないのか!!」
「しょうがないよ、マフィアだもん」
唇を突き出し、言う。
「腹立つなぁ!!」
「ははっ、ここでもマフィアごっこか?」
「……これって……肉じゃが?」
「あの調理実習以来、和食を色々勉強したんだよね。そしたらこれ、典型的家庭料理だっていうじゃん。だから作ってみるのも悪くないかなって」
綺麗な形に切られた野菜達、湯気もおいしそうに立っている。
「ビアンキ、獄寺君は……?」
ツナが聞くと、ビアンキは首を横に振った。
「全然ダメよ。気絶したようにぐったりして……何かにうなされてるみたいだった……」
「そっか」
だろうけど……
「じゃあ、が持っていってあげたら?」
「え? 私?」
ツナの提案に、は自分に指をさす。
「だって、作った人が持っていったほうがいいじゃん」
「そうだな! 持っていってやれよ」
ツナの真意を知ってか知らずか、山本も便乗する。
「……そうね、お願いできるかしら」
ビアンキが言う。「もしかしたら食べるかもしれない」
「……わかった。行ってみるよ」
ふすまを開くと、そこは和室だった。ショウジ……はないけれど、イタリアにはない、どこかゆったりとした雰囲気を感じさせる。床は、ザラザラしていて、日本人の好みがよくわからないけれど、慣れればきっと心地いいんだろうな。
床に、直に布団が敷かれている。そこに、獄寺が安らかに眠っていた。死んだ風に。落ち着いているんだろう。リボーン曰く、彼にも日本の血が流れているのだから、当たり前といえば、当たり前なのか。
あのお姉さんが言った風には見えないけれど……。このわずかの時間で、安定したんだろうか?
少し抵抗はあったけれど、床に座る。お盆にのせたご飯と、肉じゃが。まだ暖かいと思うけれど、すぐに冷めてしまいそう。
「……獄寺? 大丈夫?」
声をかけたら、すぐに獄寺は瞼を開けた。
「ん……、か?」
体を起こすけれど、まだ顔色は悪い。
「あっ、まだ寝てないと、顔色悪いよ?」
「大丈夫だ……アネキさえいなければ、な」
「は? アネ……キ?」
事情を聞けば、納得できなくはない。そうか、あの人がお姉さん……姉弟そろって、綺麗で。
「ふーん……随分と歪な関係で。お姉さんが可哀そう」
「アイツの才能が悪い」
機嫌が悪いようで、眉をひそめている。そんな体質だったら、お姉さんが嫌いなのも無理はないけれど。
「……それはいいけど、ご飯、食べる?」
「あぁ、もう腹の調子は良くなったし……でも、向こうにアネキは?」
「いるけど、病人だと思って、ここに持ってきたよ」
お盆ごと差し出せば、獄寺は眼を見開いて、驚いていた。よかった、まだ湯気は残ってる。
「これ……本当にお前が?」
「勿論……あ、肉じゃが、ダメだった?」
「いや、食べたことがないだけで」
「へぇ、そう。でも……味は悪くないと思う」
獄寺はお盆を受け取り、あぐらの上に乗せる。箸を手にとって、「……いただきます」と、意外にも律儀に挨拶した。
持ち方も、綺麗。私はまだ、上手く箸を使えないけれど、やっぱり慣れなのかな。
じゃがいもを割って、その片割れを口に運ぶ。何故か、私は緊張していた。人に作ったものを食べてもらうなんて、何回もあるのに。普段は、こんなに緊張しない。きっと、こんなに綺麗な人に食べてもらうのは初めてだからだろう。
「……うまい」
一言、獄寺は呟く。その言葉で、緊張は解けた。この言葉、それだけで、緊張は喜びに変わった。
「よかった……」
「10代目も、これ食べてんのか?」
「そうだけど」
10代目……ツナの話になった途端、獄寺の顔にうっすらと笑みが浮かぶ。私の料理を食べた時も、表情は穏やかだったけど、それほどに、獄寺はツナが、大事なんだ。あの一瞬、同じ場所にいたのに、私と、獄寺の感じ方は、全然違っていた。……どれだけ心酔してるんだよ、と思いながら、もっと深く考えてみると、逆に獄寺の真意はまったく見出せない。
「10代目にも、感想聞いてこいよ……10代目のことだから、お口に合わなくてもおいしいと言って下さるだろうが」
オレは、もう平気だから、と。本場の人の感想のほうが、きっとお前の役に立つ、と。
……なんだよ、私にまで優しくして……10代目と、リボーンにだけだと思っていた。
「……わかった。じゃあ。またあとで食器とりに行くから」
「あぁ」
ふすまを閉めてしまうと、もう何も聞こえない。
どうした、私。また、緊張していた。料理とは関係ない。あの短い時間、獄寺の意外な一面を、見すぎてしまったから。
しばらく、私はツナ達のところに行くことが出来なかった。多分、顔が赤い。
獄寺よりも、私のほうが、病人みたいだ。
「お、。獄寺どーだった?」
「隼人、ご飯食べたかしら?」
山本とビアンキが、真っ先にに気が付いた。ツナも、何か聞こうとしたが、の様子がおかしいことに気が付く。
「獄寺、結構落ち着いてた。ご飯もおいしそうに食べてたよ」
と、返事はしているが、なんだか、表情が……うつろだ。
「あ……も、食べたら? おいしかったよ」
「そ、そう? よかった……」
ようやくが笑顔を見せる。
リボーンと山本の間のあいた場所に腰を下ろし、「いただきます」と手を合わせる。箸の使い方は、まだ慣れていないのか、ものをつかむと震える。そのまま、そっと口に含むと
「おいしい」
と呟いた。
「みんな、おいしい?」
「ああ、の料理、スッゲーうめぇよ。また今度作ってくれな」
「はひ……負けました……」
「ランボさんおかわりー」
「ええ、本当においしいわ」
と、各々の感想を口にした。
「リボーンは?」
「上手かったぞ。この調子で明日の朝も頼むな」
「あ……う、うん……」
不満そうではあるが、頷く。やはりリボーンは絶対らしい。
「、明日もツナんちで飯つくるのか? じゃあオレも来ていい?」
「え……ツナがいいなら、私は平気だけど」
「いいぞ」
「ちょっ、リボーンなに勝手に答えてんだよ!!」
「どうせお前は否定しないだろうが」
「た、たしかにそうだけどさ……」
目のやり場がなくなり、ふと窓から覗く空を見る。まだ日が長い9月。6時を少し過ぎた、少し早いくらいの夕飯。空は赤く、綺麗だった。日が暮れるまで、あと30分といったところ。
「6時……? あ、山本、部活じゃないの?」
「ん? ああ、今日は何故か早く終わってよ。なんだか顧問が突然気絶したとかって……」
リボーンの仕業だな……
通りで、リボーンはついてこなかったわけだ。でも、なんで?
「たまには大勢で夕飯も悪くねーだろ」
ツナの心を読んだかのように、リボーンは言った。
……うん、そうかもしれない。獄寺君がいないのは少し寂しいけれど、一応は同じ屋根の下だ。あとで見に行ってもいいかな。
そんなこんなで、夕食会はお開きとなった。山本は早々に帰宅し、ハルは後片付けについてともめていた。
「ハルが片付けしますー!」
「いや……でも、あなたはあくまで客人だし」
「違います! ハルはツナさんの婚約者なんですからー!」
ツナが見る限り、ふたりの相性は悪いようで、意見が合わない。ふたりとも、面倒見がいいところとか、明るいところとか、よく似ているのだが。
「……じゃあ、よろしく。私、少し疲れたから、どこかで休みたいんだけど……ツナ、私の今晩寝るとこ、何処?」
左手で頭を抱え、ツナ……というより、その向こうの窓を一瞥して言う。
「あ、そうだな……じゃあ、母さんの部屋を借りようか」
ツナが場所を教えると、居間の隅においていた荷物を拾い、は黙って出て行った。
「……大丈夫かな?」
「あいつなら、問題ねぇ。……もうすぐ、夜だな」
ツナの疑問を、リボーンが受け止める。しかし、すぐに話題を変えられて、ツナは戸惑ってしまった。
「え? あ、そうだ、けど」
「多分、は部屋にこもってでてこねーと思うぞ」
「……?」
食べ終わった夕食を盆にのせ、獄寺は布団の上で寝転んでいた。ここでじっとしていると、またビアンキが来るかもしれないが、黙って出て行くわけにもいかない。
食器をチラチラ見ていると、獄寺の顔はだんだんに赤くなっていった。
おにぎりに続いて、晩飯まで。
本当に、うまかった。
あの時、を追い出したのは、この顔を隠すため。自然とにやけて、こんな無様な顔、誰にも見せたくなかった。
刹那の回想の後、ふすまが揺れる音がした。
ふすまの向こうから来たのは、ツナだった。
「獄寺君、調子どう?」
「あ、もう大丈夫っス! ありがとうございます!」
「いや! 土下座しないでいいから!」
オレ、食器下げに来ただけだから……。と、ツナは盆を持って部屋を出ようとするが、何か思い出したように足を止めた。
「獄寺君、いつ帰る? まだ調子悪かったら泊まってもいいけど」
「そんな! 泊まるなんて恐縮っス! オレはそろそろ帰らせていただきます!」
「そっか。 まぁウチにいたらビアンキがいつ来るかわからないもんね」
「スイマセン……失礼します」
「うん」
ツナが部屋を出るのに続き、獄寺は部屋を出て、通算27回礼をして帰っていった。
「今日は屋上行けそうにない……10代目と会ったらリボーンさんに怒られる……」