「……10代目、チョウノウリョクシャとはどんな日本語で?」
本気でわからないのか、動揺してるのか、まぁそんなことはどうでもいいけど、オレに説明を求めないでよ。
標的4・非現実はすぐ其処に
保健室の奥にあるベットに、は横たわっていた。その窓側に、リボーンが、反対側に、ツナと獄寺が並んで座っている。
裏庭で見たは、顔が真っ赤で、明らかに異常を示していたが、今はすっかり良くなり、静かに寝息を立てている。
「esper.これでわかるか。」
リボーンが解説する。といっても、ただ伊語に翻訳しただけなのだが、その一言で、獄寺は落ち着きをとり戻り「やはり…」と溜息をもらした。
「あ…いえ、動揺していただけなのですが…ありがとうございます。」
「そうか、じゃあ話の続きにいくぞ。最初に言ったように、は超能力者だ。アイツの能力は、テレポートと、サイコキネシス…いわば、物理的な状態変化を意味するPKを扱う。」
「え、リボーン、いきなり話がわからないんだけど…。」
「ダメツナめ。」
リボーンは普段のように容赦なく、ツナを罵倒する。
「…お前の説明が難しすぎるんだ!!」
「10代目、が…」
「あ、ごめん…」
ツナが叫んでも、は目を覚まさず、静かに呼吸をしていた。リボーンは溜息をつくと、話を続ける。
「…仕方ない。ダメツナにもわかるように解説してやる。超能力者は、最も得意とする能力をひとつ、そしてそれより威力が微弱な能力を複数持っているんだ。の場合、得意なのはテレポート、つまり瞬間移動能力で、それより威力が小さいが扱えるのがサイコキネシスだ。」
その説明をうけても、ツナは眉をひそめて、すっきりしないような表情をする。その代わりに、獄寺が確認するように呟く。
「つまり…は自分を瞬間的に移動させたり、物質を移動させたりできるんですね?」
「まぁ、そういうところだ。もっとも、サイコキネシスは不可視バリアを張って衝撃を無効化することもできるがな。の能力に、お前達は知らず知らずのうちに助けられてるんだぞ。」
ツナは目を丸くする。獄寺もまた、片眉を吊り上げる。
「え?」
「さっきもそうだ。のサイコキネシスによる不可視バリアで、爆発の衝撃がツナと山本のところにまで及ばなかったんだぞ。」
「じゃあオレ達を助けたせいで…。」
「超能力の根源は精神力だ。は、イタリアと日本の環境の変化に充分についていけなかった。それで精神力が枯渇。その状態で超能力を乱用していたからな。ただ、本人が精神力の状態に気がついていなかっただけだ。お前等のせいじゃねぇ。」
「でも…。」
リボーンは「うるせぇ。」と突っ込んだあと、口の端を吊り上げ、一瞬だけ笑った。
「むしろ、今回のことは丁度いいきっかけだったんだ。あいつが人のために精神力が枯渇した状態で超能力をつかうことなんてなかっただろうからな。」
「…といいますと。」
「イタリアの故郷では、超能力者ということで迫害を受けていたんだ。」
「「!!」」
「が住んでいたのは小さな農村でな。その村にたったひとつある教会で、事故があった。事故の詳細はオレもよく知らないが、その衝撃で能力を得たらしい。」
ツナは首をかしげる。
「超能力って、生まれ持ってあるんじゃないの?」
「才能は、な。超能力を使うためには、その才能がなければいけないが、その才能があっても実際に使えるようになるタイミングは違うんだ。だから、生まれてすぐに超能力が使える人間と、才能を持ったまま超能力が使えずに死んでいく人間もいる。」
「…あのさ、超能力があるからって、どうして迫害を受けなきゃいけないの?」
「人は常識からかけ離れたものを嫌う。そういえば分かるか?」
「……。」
リボーンの言葉で、何かに苦しむように目を閉じる獄寺。ツナは、獄寺の異変に気付き、獄寺の顔を覗く。
「獄寺君?」
「…いえ、なんでもありません。」
獄寺を一瞥するだけで、リボーンはそれ以上獄寺の様子を気にすることなく話を戻す。
「普通の超能力者なら、それほど迫害を受けなくて済むんだがな…。」
「?」
「あいつが現れた場所で、殺人が起こるという話があり、今まで殺された人間は大鎌で首を切られたような傷をつけて死んでいるところから、『白き死神』と呼ばれている。」
「それって…。」
ツナの顔が青くなる。暗にを疑うよう。それを読んだかのようにリボーンは言う。
「は勿論否定している。それ以前に、コイツは武器を持っていないし、超能力を使っても人を殺すことすらできない。ただ、そんなことを言っても誰も納得しないだろ。そんな不吉な奴、誰が歓迎するか。だから、その迫害からの保護を条件にボンゴレに引き入れたんだ。」
「何、何、勝手にモノが…!!」
「ギャァァァァ!!」
「どうした!?」
「首が…。」
「お前がここに来てからというもの、ここの住民の一割が逝ってしまった!もうお前をここにはおけない、はやくこの村から出て行け!!」
「お前…『白き死神』だ!早く追い出せ!!鎌で首を刈られるぞ!!」
「貴様、今度はこの村を滅ぼしに来たのか。それ以上人を殺すというのなら、俺たちがお前を葬ってやる!!」
「傷と言う傷を癒せないまま…イタリアには居場所がなくなってしまったは、生まれ故郷である日本の並盛にやってきた。が住んでいた村は、ボンゴレの拠点の近くだったことから、に目をつけていてな。がイタリアから逃亡したのを耳にして、オレは並盛に来ると踏んでいたら予測どおり、並中で出会ったわけだ。」
「そんな…。」
「の明るさは、その迫害が裏目に出た結果だ。誰にも心情を悟られないように…要するに、人間不信だ。いいか、の心の壁を取り払うのは、お前達だぞ。」
「それじゃあ…今までオレ達の前で笑っていたは、偽者なんですか。」
「獄寺君…。」
「お前と一緒だ、獄寺。は、何よりも自分の超能力…変えられない自分の運命を呪っている。お前はツナという心を許す人間がいるが、にはいねぇんだ。だが、いずれはお前達に心を許すことになる。仲間ってのはそういうもんだからな。だから、今のを受け入れろ。」
「……。」
「…ねぇ、リボーン。」
獄寺は黙り込んでしまう。ツナは躊躇いがちに、リボーンに声をかけた。
「なんだ?」
「リボーンには…は、リボーンには心を許してるのか?」
「それを聞いてなんになる。」
「だって、をボンゴレに入れたのはお前だろ?」
「…たしかにそうだ。だが、お前等が知ることじゃねぇな。オレとの関係を秘密にするのも、との約束だ。」
「……そうやって、約束とか、秘密とか、中途半端にオレ達に教えておいて結局そんな言い分で肝心なことを聞かせてくれないのかよ。」
「オレとの間柄が、そんなに重要か?」
「別に…でも、教えてくれたっていいじゃないか…」
「…それで、お前はを受け入れられるのか?」
「は…?」
「一気に教えたところで、混乱するだけだろ。それに、今オレがしゃべった事は、の過去という黒箱の蓋を開けてすらいない。こんな甘いことで精神を枯渇させるような超能力者、お前のファミリーに入れたりしねぇ。そんな話を延々と聞きたいのか?オレが思うに、獄寺はともかく、ツナは耐えられないだろうな。」
「な…オレだけ?お前オレがダメツナだからって…」
「が起きるぞ。」
「え?」
リボーンの言葉通り、は身動ぎし、ゆっくりと目を開いた。
「…あれ、ここは…?」
「保健室だ。」
の問いに、リボーンが答える。それに続いて、獄寺が声をかける。
「、大丈夫か?」
「あ…獄寺…うん、大丈夫。みんな私が起きるまで…ありがとう。」
まだ弱々しいが、はたしかに笑った。
その様子に、獄寺は安堵の息を漏らす。ツナは、顔を伏せ、膝の上にある手は固く握っていた。
「…ツナ?」
「え?」
顔を上げると、の眉をひそめた顔が見えた。
「どうかした?」
「あ…ううん。なんでもない。」
「…そっか!」
さっきまで倒れていたとは思えない。すでに、ツナや獄寺が知っているに戻っている。まさか、その顔の裏に暗い過去があるなんて、誰も思わないだろう。それくらいに、笑っていた。
「もう大丈夫!…ちょっとこけた拍子に頭打っただけだから!」
その言い訳に、ツナと獄寺は顔を見合わせ、互いに顔をゆがめる。
「じゃあ、私帰るね!あ、また2,3日学校来ないかも知れないけどよろしくっ!!」
その言葉を置き土産に、は保健室を飛び出した。
「…そういえば、ここ1週間きていませんでしたが、どうして学校休んでたんです?」
獄寺は、走っていくを見送りつつリボーンに聞いた。
「さぁな。そこらへんはオレもしらねぇ。」
「はぁ…。」
そして本日の入ファミリー試験は終了、解散の運びとなった。
2008/11/24