標的3・試験と秘密
「1週間、お前が学校にいない間にツナに新たなファミリーが増えたんだ。」
「…クラスの、野球部員?」
酷くおとなしい声。普段の姿からはとても似合わないが、たしかにの声帯から発せられていた。
その異常を、まったく気にせずと会話をするのが、リボーンだ。
「あぁ、山本武つーんだぞ。向こうでもそうなのか?」
「名前は違う。でも、姿形はそっくりです。」
「そうか…。まぁ、アイツの人望はファミリーに欠かせないからな。実は獄寺にもそう言ったんだが、アイツはまともに聞きやしねーんだ。」
「それで。」
「山本の入ファミリー試験をすることにした。一応お前も立ち会え。」
「…わかりました。」
そこで会話は途絶え、はリボーンに背を向けたかと思うと、消えてしまった。
「そろそろ限界じゃねーのか、…」
そして、入ファミリー試験が始まった。
銃声、ツナの悲鳴。それらはすべて、屋上のフェンスの外側に座っているにもよく聞こえた。
チュン…
の足すれすれのところを弾丸が通り、頑丈なはずの校舎のコンクリートに食い込んだ。
「立ち会えって…もっと近くで見てろってことか。」
ハァ…と溜め息をついた直後、はコンクリートに食い込んだ弾丸とともに消えていた。
「獄寺っ。」
トン…と、誰かが獄寺の肩を叩く。
「あぁ?」
と面倒臭そうに振り向くと、そこにはニコニコ顔のがいた。
「えっ、…。」
「聞いたよ、山本武の入ファミリー試験やってんだって?にしてもハードだねぇ…なんでツナもやってんの?」
「あ、いや、それが…」
「手本を見せてやるって、ツナが自ら入って行ったんだ。」
しどろもどろになっている獄寺の代わりに答えたのは、リボーンだった。
「リ、リボーンさん!?」
「あっ、そうなんだ。じゃあ、あのアフロは何?」
そう言って指差したのは、ボヴィーノファミリーのランボだった。
「さーな。とりあえず学校に無断で侵入してきた不審者だ。」
自分のことは棚に上げて、サブマシンガンを連射させるリボーン。
は、あ、それなら。と弾丸を右手の人差し指と中指の間に挟みながら言った。
「アフロの脳天にこれ、撃ち込んでいい?」
「は…」
「あぁ、いいぞ。」
「な!?」
の大カミングアウトと、それに対するリボーンの返答に、動揺せざるを得ない獄寺。すぐさま、に
「ちょっと待て!素手で、しかもあんな距離にいるガキの脳天に弾撃てるわけねぇだろ!?」
「まぁそこで見てろ、獄寺。」
「そうそう。」
言いながら、は右手を横に払う。
直後、ランボの姿が突然消えた―否、ただ非常階段の壁から落ちただけですぐさま起き上がった。しかし、ランボの脳天からはたしかに血が流れている。
「が・ま…うわぁああぁん!!!」
「ハァ!?」
泣き出すランボ。
獄寺は完全に状況の判断ができなくなっていた。
「うん。今日も冴えてるな!」
「つーか…普通死んでるだろ…」
「あぁ、大丈夫。かすらせただけだから。」
「かすらせたって、軌道を曲げねーとできないだろ!」
…なんだか次元が違うっつーか…
「それより獄寺。」
獄寺が白目をむいているところに、リボーンが声をかける。
「はい?」
「お前もぶっぱなしていいぞ。山本をぶっ殺すつもりでいけ。」
「な…」
しかしあの中には10代目が…
うろたえる獄寺。が会話に割って入る。
「ねぇリボーン、私は?」
「お前はマジで殺すからダメだ。」
「えー、アフロだってギリでかすらせたのに…」
「そういう問題じゃねーってんだ。」
「……わかりました。」
「?」
なんだか少し雰囲気が変わったような…
獄寺はそんなことを思ったが、いいやそれより、とダイナマイトを構える。
「うわぁあぁぁあん!こうなったら10年バズーカだもんねぇ!!」
「10年バズーカ…?」
は首をかしげるが、そうしているあいだにもランボはバズーカを自分めがけて発射させ、10年後の自分と入れ替わった。
「やれやれ、10年後のランボがやるしかねーな。」
なにあの牛柄キザ野郎…
は、ミサイルランチャーを構えた大人ランボにそんな感想を抱いていた。
「最後はロケット弾だ。」
「果てろ」
「サンダーセット」
三人が、それぞれの武器を放つ直前。
「あたっ!」
「ツナ!?」
ツナが大きく転び、山本を巻き込んで倒れてしまった。
それでも容赦なく三人の武器は放たれる。
獄寺が二人の異変に気付いたのは、すでにダイナマイトを投げた後だったのだ。
「10代目―!」
「ツナ、山本!!」
が叫んだと同時に、爆音が鳴り響く。
「手遅れ…?」
が、不自然な言葉を呟く。
「何がだよ?」
「え…ううん…」
獄寺の問いに、は目を伏せ首を振る。
「まさか、まさか…」
獄寺は必死に脳内に描かれた最悪の事態を振り払おうとする。しかし、なかなか離れない。
それを拭ったのは、リボーンの一言だった。
「どうやら、ツナ達のところまで爆撃は及んでないみてーだな。」
「たたた…」
「大丈夫か、ツナ?」
「う、うん…。」
爆発が収まり、ツナ達の姿がだんだん明確になる。よくみれば、ツナを庇うように山本が覆い被さっていた。
「合格だ。お前も正式にファミリーの一員だぞ。」
「サンキュー」
人生が危ぶまれた状況だったにも関わらず、相変わらずの笑顔で返す山本。
よっと体を起こした山本に、獄寺は胸ぐらを掴む。
一瞬、山本を罵倒するのかと思えたが、獄寺の口から溢れたのはむしろ
「よくやった」
誉め言葉だった。
「10代目を守ろうと身をはったんだ。ファミリーと認めねーわけにはいかねぇ。まぁ、今回はたまたま運がよかっただけだがな。ということで10代目の右腕はオレだからな、お前はケンコー骨だ。」
"どういうこと!?"
ツナと山本の思考がシンクロした瞬間だった。
「ケンコー骨って…、前から思ってたけど、獄寺って面白ぇー奴な!」
「は?」
「だが右腕を譲るつもりはないね。お前は耳たぶってことで。」
「なぜそうなる!?」
耳たぶってほとんどいらないじゃん!
ツナがそう思っているうちに、
「んだと、お前は鼻毛だ!」
などと下品な方向へ走っていく。
このふたり…ある意味息合ってない?
とツナは正直感心していたが―
つーかふたり揃って部下気分だ!
気付きたくない事実に気付いてしまう。
「んじゃ、部活行くわ。またな、チビ。」
「おう。」
エナメルバックを背負い、リボーンに挨拶をする山本。
"リボーンをチビ呼ばわりできるの、多分山本だけだよな…"
「しっかし…さっきの爆発といい最近のおもちゃってリアルな〜」
「え!?」
"まだマフィアごっこだと思ってたのねー!!"
色々な意味で山本の凄さを認識せざるを得ないツナだった。
「じゃーな、ツナ、獄寺。楽しかったぜ!」
「あ、うん…」
半ば放心状態で返事をするツナ。そんなツナの心情を察することなく、山本はグラウンドへと走っていった。
「で、結局どっちがツナの右腕なんだ?」
山本が去った後、リボーンが獄寺に問う。獄寺は、煙草片手に胸をはって答えた。
「それが、まるで逃げるように部活に…きっとオレの実力を知るのが怖かったんで、」
しかし、言葉は最後まで続かず、煙草が手から滑り落ちる。獄寺の目はツナのさらに後ろに焦点を絞っていた。
「…獄寺君?」
ツナが声をかける。が、獄寺は口をわずかに動かしただけ。その口は無音のまま
"が…"
と言っていた。
ツナが振り返ると、10mあたり離れたところでが横に倒れていた。
「!」
ツナが走り、そのあとにリボーン、獄寺と続く。
のすぐ傍まで駆け寄ると、の顔は高揚し、息が荒いことがよくわかった。
「やっぱり限界だったか…」
の様子を確かめるなり、そう呟くリボーン。
「限界って、何だよリボーン!?」
「いいから、保健室に運べ。」
ツナの質問を軽く無視し、リボーンは校舎へと歩を進めた。
「おい、リボーン。」
「なんだ?」
「さっきのオレの質問に答えろよ、なにが限界だって?」
保健室でをベットに寝かせ、が落ち着いたところでツナは口を開いた。
不運にも保険医がおらず、ツナと獄寺が慣れない手つきで処置をしていて、そのあとになって、リボーンが保健室に入って来たのだ。一度はツナ達と保健室に来たものの、処置をしている最中に外に出ていたらしい。
「あぁ…そのことなんだが、はお前達に話すことを望んでいなくてな。」
「なんで…」
「だが、オレはお前等や、山本、そして後々ファミリーになる奴等には知る義務があると思ってるんだ。」
いつになく神妙な表情で、リボーンは言葉をつむぐ。
「それは…こいつがボンゴレに来ることと関連があるのですか?」
獄寺が濡れタオルを絞る手を休め、言った。
「何故そう思うんだ?」
「…には裏社会の臭いがしなかったんです。成り立てとはいえ、マフィアになるような奴は大抵そんなニオイがプンプンする。それに、あのガキに撃った弾だって、通常の人間の力であそこまで届きませんから。アイツには何か特殊なモンがあるのではないかと。」
「そうだよ…初めて会ったときから、あの教壇の上にいたときからは普通の女の子だった…雰囲気は。」
「なるほどな。たしかにお前達の言うことは限りなく正解に近い。だが、世の中スゲー演技力を持っているやつがいるのを覚えておけ。そして、もファミリーで、仲間はずれにしていい存在じゃないってことを理解した上で、オレの話を聞け。」
リボーンの言葉には、確かな圧力がこもっていた。ツナと獄寺は黙ってそれに頷いた。
「は…超能力者だ。」
ツナと獄寺に旋律が走る。しかし、ツナは「あぁ…」と呟き、すぐに口を押さえる。
"オレ、もう知ってた感じがする…"
2008/11/23