「やぁ、久しぶりだね。さん。」
「いつもありがとうございます。」
そういって、は会釈をする。相手は、嬉しそうにニコニコしてるが、すぐに険悪な顔つきになる。
「それで、今日もお願いしたいんだが…。」
「はい、何でしょう?」
「できるだけすぐ、我らの存続がかかってる仕事だ。」
相手の言葉は、とても重々しく、現実味を感じさせる口調だった。
「そんな仕事を…私に?」
「君にはほぼ専属といっていいくらい世話になってる。この仕事も、君にしか頼めないんだよ。」
一度言葉を切ると、相手は仕事の内容を口にした。
「…え?その人を…殺すんですか?」
「そう。彼がいると、我らの存続が危うい。だから、最も頼れる君にお願いしたい。」
「…すいません。彼とは顔見知りなんです。少し考えさせてください。」
「そうか、まぁ、いいだろう。しかし、我々はよい返事を期待しているよ。」
「はい、本当にスイマセン。」
「では、また。」
は、少しうつむきぎみに会釈して、出て行った。
今にもなって、後悔とか遅すぎる気もする。
だからといって、このままだと大切なものを失っちゃう。
あぁ、ボンゴレ専属の殺し屋になればよかったなぁ…。
ヴァリアーに入隊してもよかったと思う。
なんたってまた―
「隼人を殺さなくちゃいけないのよ…。」
依頼者はお得意さんだ。この人がいないと、私は今頃生きていないだろう。今回の依頼の報酬も莫大な金額で。
標的が隼人じゃなかったら、今頃踊ってたのになぁ…。
隼人の弱点は知っているし、標的にしたら一番殺しやすい人だけど、それにもまして一番大切な人だ。
バイクに乗って、暗い夜道を走ってたら、軽くクラクションの音がする。
「。」
「げ、隼人…。」
黒塗りの車から出てきたのは、殺さなければいけない人。獄寺隼人だった。
「なんだよ、「げ」って。」
「いや、なんでもない。」
眉間にしわを寄せた隼人に、私は必死に弁明する。
「また殺しの依頼でも受けたのか?」
さすがに隼人は勘がいい。私は、嘘をつくのが苦手だから、ばれるのは時間の問題だ。
「う、うん。まぁね。今日は急ぎの仕事でさ…急がないと、標的も移動しちゃ―」
「お前、オレを騙せると思ったか?」
しわを寄せたまま、隼人はいった。
「え?どういうこと…騙すって、私が?私が隼人を騙す?そんなことできるわけないじゃん。」
「そんなのオレが一番知ってる。でも現に、お前はオレを騙して、ばれる前に逃げようとした、そうだろ。」
「う…。」
なんでだろう。今日の隼人は勘が良すぎな気がする。もしかして、聞いてたの?
「隼人、聞いてた?」
「…あぁ。」
隼人は目を伏せて、少しだけ辛そうだった。私も、聞かれてたことにショックを受けて、隼人と眼を合わせることができなくなった。
「私、隼人は絶対に殺さない。殺したくない。」
随分昔から、一緒だった。その頃から好きだったし、大切な人だった。隼人はどう思ってるのか知らないけど。
「この手で、隼人の命を奪いたくない。」
「…オレは、お前に今回の一件を依頼した奴…ピオッジャファミリーのボスを尾行していた。」
ピオッジャファミリーは、最近急激に力をつけてきた若いファミリーで、最近はボンゴレと対立をしている。ボンゴレは和解を求めたけど、ボス―隼人暗殺の依頼者―は、それを受けなかった。負けも、引き分けも許されない。勝利だけを求めたボスの考え方が、ピオッジャファミリーを成長させ、現在に至る。
ピオッジャファミリーは勝利のため、ボンゴレファミリーは和解のために、暗殺や、尾行を決行せざるを得なかった。
「…そっか、ピオッジャファミリーはボンゴレの敵だもんね。それでも、私はボンゴレに触れる仕事が来なかったから、放っておいたけど。結局は、隼人達と対立しなきゃいけないんだ―。」
今更。今更、なんで気付いたんだろう。前から知っていたのに、ピオッジャとボンゴレが対立してたことなんて。
「は、どっちに就く?」
突然隼人は顔をあげて、私の眼を捕らえた。決意にあふれた眼。私の返答によっては、交戦も免れない。そうでなくとも、答えは、だいたいハッキリしてた。
「私は、ピオッジャのために働いてたわけじゃないし、ピオッジャの考え方は好きじゃないし、ピオッジャにつく気はないよ。払いがよかったから、結果的にそうなっただけだし。私は―いつかピオッジャを裏切るつもりだったから、都合いいし。」
「それは本当かよ。」
「私が嘘をつけないのをしってるでしょ?」
「…そうだな。」
隼人の眼が、少しだけやわらかくなった。
「大丈夫。仕事となれば、演技はできるし、スパイとして動くから。」
そのために、少し協力してくれないかな。そういって、隼人の返答を待つ。
「…何をすればいい。」
「殺されて。…正確には、殺されたフリをして欲しいの。」
その言葉が出るのを分かっていたのか、隼人はほとんど驚かなかった。
「それで?」
「その後は、殺されてから。とりあえず、腕か足を撃たせて。写真を送らないといけないから。」
本当は、隼人に傷を付けたくないんだけど、仕方ないことで、殺した証拠写真を送らないといけないのが、私とピオッジャで結んだ契約だった。
「…お前の計画は完全なんだろうな?」
少し険悪な顔をして、隼人は聞いた。
「大丈夫だって、何回言えばいいの?」
私達ほどの関係じゃないと、ここまで信頼できないと思う。少なくとも、幼なじみという意味で。
「…わかった。」
もともと、人通りの少ない道だった。私は腰にかけてある銃を構えて、隼人の足に向けて、弾を放った。
裏切り、血、仕事
恋愛要素が少ない…
さらに言わせて貰えば、獄寺が素直過ぎる気がしなくもない。